2017年の横浜F・マリノス分析 補足・戦術における運用の失敗
この記事の補足的な内容です。
先ず、あくまでも、ファン、サポーターが2017年のマリノスを正しく捉えられる補助として、当記事を作成しています。
誹謗中傷に利用されるのは心外であり、おやめください。
この記事内で若干、戦術について数行触れたのですが、もう少し広げたい思います。
言葉の認識は重要です。
戦術(せんじゅつ、英: Tactics)は、作戦・戦闘において任務達成のために部隊・物資を効果的に配置・移動して戦闘力を運用する術である
目的に応じた駒の選定、その最適な配置(計画)と、配置を作る方法(実装)、運用の検討という事になります。
かつて、日本代表が世界を目指し、Jリーグが始まった頃には、雨後の筍状態で専門メディアが溢れ、新聞などの既存メディアでもサッカーが取り扱われる様になり、その結果、戦術という言葉が普及していった感はあります。
その時代に特に一般メディアで良く見られたのが、将棋の駒を使ったポジションの解説であり、将棋という土壌を持った日本という国では、確かに良い流用だったと言えます。
その中でも、動きのイメージ、例えばサイドバックは香車で、タッチライン際を上がっていくんだ、程度の物が多かったのですが、一方で、より戦術という言葉に合致した解説を目にしたことがあります。
誰が何のメディアで書いたのか、記憶が曖昧ですが、それは、飛車と角という、いわゆる強い駒を、どこで、どの様に使うのか、という、正に、配置と運用こそが、戦術であり、各チームのスタイル(戦い方)なんだ、という的を得た物でした。
2トップに配するチームもあれば、トップ下とフォワード、両サイドのウイング、ボランチとFW、センターバック2枚なんていうのもあるかもしれません、みたいな話です。
運用の失敗とは
この点で、徹底的なリスク管理を行うモンバエルツのチームにおいて、リスクを避ける為に中央を進むビルドアップを減らし、サイドを回り込んでいく、という指針があったと推測する17年のマリノスにとって、両サイドにリーグ屈指のウイングを配置するのは当然と言えます。(中央攻撃使用頻度はリーグ17位 フットボールラボ)
そして、前回触れたように、自陣ポゼッションでの失敗が多く、カウンターも少ない事で、敵陣へ入れないという状況を加味すれば、両ウイングは十分なプレー機会があったと言えます。
今季大ブレイクして日本代表にも選ばれた柏レイソルのウインガー伊東純也
(フットボールラボのチャンスビルディングポイント参照 ドリブルは加算方式なので出場時間が多いほど伸びる傾向)
ドリブル指数は約3000分出場で 16.41
出場時間辺りのシュート数 1.4本 6ゴール
アシスト&チャンスクリエイト 18
ドリブル指数は約2500分出場 14.93
出場時間辺りのシュート数 0.7本 5ゴール
アシスト&チャンスクリエイト 20
ドリブル指数は約2400分出場 19.94
出場時間辺りのシュート数 1.6本 1ゴール
アシスト&チャンスクリエイト 15
特にシュート数において、柏はリーグ6位であるのに対して、マリノスはリーグ13位なのを考慮すると、いかに齋藤が突出した数字なのかはお分かりいただけるかと思います。
ちなみに、同じく柏で大ブレイクした2列目の選手である武富は、出場時間辺りのシュート数は1.0本(9ゴール)です。
以上から、プレー機会という点からみると、ある程度は思惑通りに進んだ部分もあり、配置は良かったが、次の段階において、シュートを打つべきではない駒に打たせる、打ってしまう、というデータが残っている事から、つまり運用が悪かった、というのがわかります。
運用の失敗とは『そこから何で角がそっち行くの!』みたいなイメージ、いわゆる配置で勝っていたのに逆転を生んでしまう悪手。
カウンターをしなくなったチームで求められた物
前回、記事で触れたように、2017年にマリノスは意図的にカウンターの頻度を下げ、ボールを長く保持し、構築及び再構築を繰り返す攻撃、いわゆるポゼッションの頻度を高めました。
左からフットボールラボにおける2015年、2016年、2017年の指数(※回数ではない)。
ショートカウンター 51 49 35
ロングカウンター 43 61 49
その結果として、カウンターの状況ではゴールを量産していた齋藤学が、特に低い決定率を記録するようになってしまったのは、既に紹介した通りです。
一方で、今季、もちろん出場時間の影響はありますが、マリノスのシュート数が少ない中で、ゴール数を積み重ねた選手もいます。
前項では、配置が成功しても、運用で失敗があったと結論づけましたが、では、正しい運用とは何だったのか、といえば、シュートを打つべき選手を変える設計であり、修正が必要だったと言えます。
先ず、これだけ強力なウイングがいてサイドの比率も高いのに、クロスからのゴールが10得点しか無い。
左サイド攻撃の空中戦使用率 リーグ15位
右サイド攻撃の空中戦使用率 リーグ18位
この結果もあって、ボックス内を離れないウーゴの1試合辺りシュート数は 1.5本(10ゴール) です。
セレッソの杉本は出場時間辺りのシュート数は 3.4本(22ゴール) です。
確率論では、決定率において、ウーゴが杉本と同じ、出場時間辺りのシュート本数であれば、川崎の小林なども含め、リーグ得点王が狙えます。
また、バブンスキーや天野、そしてマルティノスや前田もそうですが、今季のゴールシーンとして、自分の前にディフェンダーが揃っているテクニカルな状況でも、正確にコースを撃ち抜ける選手が、複数のゴールを重ねています。
サイドという場所を目標に、両ウイングと決定率トップレベルのファーストトップ、というリーグ最強クラスの駒という最適な配置しているにも関わらず、推定される成果よりも低い数字になっているのは何故なんでしょうか。
さぁ、おさらいです。
戦術とは何か、その構成要素は、目標、駒、配置、だけでは無かった筈です。
配分の失敗
齋藤学は、リーグで一番ドリブルをした選手であり、特にカットインプレーを多数行いました。
しかし、攻撃方法の比重を変えて、状況が異なっているにも関わらず、そこから次に至る選択を間違えているというデータが残り、チームとしても、戦術として取るべき運用の修正(=再設計)をできなかった、行わなかったと言えます。
状況が変わっているのだから、選択の比重を変えるべきだった(運用の変更)。
この点において、シーズン初期では、正しい選択(運用)により、多数のゴールシーンを量産していたのに惜しまれます。
ロッベンの典型的アシストパターンと同じ、カットインからの横パス
ディ・マリアが得意とするカットインからのクロスと同じパターン
もちろん、チームの戦術において、正に配置と運用の変更、マルティノスを左に配置し、クロサーとして機能させる事で修正を試みたと思われる時期はありましたが、自由を許容するタイプだったモンバエルツは、選手の自主性に委ねた感はあります。
ゴール数を増やしたいという理想があって、その為にゴールに迫る方法を増やしたかった。
だけど、そのやりたい事はあまり上手く行かなかったね、というのが前回の主題であり、これは継続的な強化を標榜するマリノスにとって、2018シーズンに向けて最重要なテーマであり、皆さんの注目も高いと思われます。
流石に、矢倉好きなんで、矢倉組みたいけど、矢倉組む前に急襲されて対応できませんでしたってのが多すぎました。素人か!
一方で、果たしてそれが上手く出来るようになったとして、問題は全て無くなるのか、というと異なります。
戦術とは、効果の最大化を目的としている事を忘れず、配置とその効果だけで満足するのではなく、中盤戦以降の運用が重要な局面も焦点を当てるのを忘れず、今季はシーズン中に、絶えず修正がなされる事を期待します。
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