横浜F・マリノス 失敗のシーズン
シーズン開幕から注目を集めた2018年のマリノス。
今までにない黒星先行、連続で大量失点を喫するなど、不安が先行する場面もあったが、10月を迎える頃には、傾いていた天秤を水平まで戻すことに成功していた。
しかし、迎えた運命のハイシーズン。
ルヴァンカップ決勝戦を象徴的ゲームとして、勝ちたいゲームでことごとく敗れ、シーズン終了まで、わずかに1勝しか出来なかった。
結果、謝罪から始まったポステコグルー監督のシーズン終了挨拶が象徴するように、トリコロールは失敗の印象、その1色に染まり、冬を迎える事になった。
さて、事を論じるに辺り、前提は重要であり、今季はモンバエルツの3期と異なり、前述の通り監督も認める様に、失敗のシーズンと捉えるべきだろう。
では、その原因は何処にあったのだろうか。
スカッドの編成
既に責任者は席を追われた。
最後までベストを尽くすという点において、彼のプロフェッショナルな姿勢、そして何より、これまでのクオリティに文句は付けようがない。
だが、シーズンを迎えた段階における編成ミスがもたらした混乱は、それらを帳消しにしかねない大きな失敗となり、今季の成績に、失敗に終わったシーズンに、大きく関与しているのは間違いがない。
特に、デゲネク離脱以降にロングカウンターへの対応で問題が発生し連続の大量失点、更には中沢が限界を迎えた事もあり、センターバックをシーズン中に総入れ替えした事例は編成の失敗を象徴する事例だろう。
もちろん、その入れ替える手際は選手のセレクト、スピードを含めて見事だったが、この結果として、マルティノスを補う存在として期待した筈のブマルが、外人登録枠の関係でまともに戦力として計算できない状態になるなど、チームとしての総合的な戦力に影響もあった。
更にサイドバックの編成に関しては、『金井が予想外に取られた』としても最早、不思議のレベルに達していた。
まぁこれに関しては別途、ウイングとの相性問題も含めて後述したい。
ラディカル(急進的)な挑戦
何事も下ごしらえは重要だ、ポジティブな意味で捉えないのであれば、性急な挑戦とも言える。
開幕戦でビックリするほど寄せていった、我々がモデルとするマンチェスター・シティは1日にして成らず。
そもそも彼らは、マンチーニという、その後に母国のビッグクラブはおろか、ガラタサライからしか声が掛からなかった監督で、プレミアリーグを制覇する戦力を保有していた。
現在も中心を務める、アグエロ、シルバ、はこの時からいる選手である。
更に、そこからマドリードで年間勝ち点98稼いだのに、バルセロナが99だったからクビになった南米の名将ペジェグリーニの時代を経由している。
この時代に、今の中心選手、フェルナンジーニョ、オタメンディ、スターリング、デルフ、そしてデブライネを補強。
ここから更に、上記の戦力を維持しつつ、サネ、ギュンドアン、ストーンズを獲得してグアルディオラが監督をやったけど、やっとこさで3位だったのがシーズン1年目であった。
勝つ為に何を選ぶか、どんな手法が正しいか、そこに正解は無い、何を信じるかだ。
だが、クライフが考案したドリームチームのフレームを活かすには戦力が圧倒的に足りない、ある意味で、戦力的なバジェット(予算)において、他チームを圧倒できないチームが、このフレームを採用したら何処までやれるのか、という実験になってしまった。
この点で、この手法を選ぶ、信じるなら、先ずモンバエルツでJリーグを制覇する戦力、というベースの整備が最低条件だったのでは、と考える。
ところが何が起きたのかと言えば、前年と比較すると、マルティノスの席を補充出来ず、更に前述の様にセンターバックのスカッドは崩壊、この戦力の状況ではポステコグルー監督にも言い分があるだろう。
何も楽天ショップで高い買い物をしろという訳ではない、シティは必要としない、Jリーグでならトップレベルの数値を残せる選手でいい。
今後は、兎にも角にも、賢い買い物で、十分な戦力を整える事が最重要なテーマになるだろう。
では、チームには、どんな補充、補強が必要なんだろうか。
足りない一駒
シーズンをトータルで見れば、マリノスが残した攻撃の数値は悪くないどころか、殆どがリーグ1位か、2位に収まる。
ボール保持時間を意味する支配率においては、2016年の浦和を大きく上回る、恐らくJリーグチーム初のシーズン平均59%台を記録した。
だが、当時の浦和レッズがシュート数でリーグ1位を記録したのとは異なり、シュート数は4位、チャンス構築率は7位と、攻撃の非効率さがデータからも浮き彫りになった。
Jリーグラボにおける指数で、確かに敵陣ポゼッションは大幅に向上したが、自陣ポゼッションまで大幅に向上しており、結局、2つの比率で見れば昨年と同様に、自陣でボールを持ってる時間が遥かに長い、ボール保持だった。
これはマンチェスターシティが苦戦する傾向、例えばリバプール戦、例えばリヨン戦、と同じボール保持比率である。
そして、攻撃が非効率化してしまった一因として、マリノスでは、左ウイングにボールが入った時、又はサイドに流れた天野がDFラインからボールを引き出した時に、モデルであるシティと比べると攻撃の駒が常に一つ足りない点が目についた。
駒組みが終わって、いざ攻撃に取り掛かると、いつも銀があるべき場所にない、そんな状態。
我々のモデルのエース、アグエロのボールタッチ位置のヒートマップ図が以下になる。
ユナイテッド戦
リヨン戦
(who scored.comより)
アグエロは左サイドに流れがちで、特に、サイドバックとセンターバックの間、DFラインの前にあるハーフスペースでのボールタッチが、ゲームにおけるホットゾーン(最多)になる事が多い。
シルバも、ここを利用しており、アグエロとシルバが縦の関係にあると言える。
例えば、先日のセレッソ戦のゴールで、仲川がボール受けた位置など
この点、今マリノスが欲しがってるとされるフォワードが、左ウイング、トップ下の適性もある選手、というのは合点がいく部分がある。
ファーストトップがこのスペース(空間)を利用することで、攻撃は駒不足が解消され、大幅に改善すると思われる。
この点、攻撃の構築、又はその補助に関心が薄かったウーゴではマッチしなかったとも言える。
偽サイドバックと山中
なぜユンにあれほどこだわったのか。
そもそも、山中は走力やクロスを武器にするタイプの選手であり、インサイドハーフの適正がある選手を起用する、偽サイドバックに適した選手とは言えない。
それは、アメフトならクォーターバック、バスケならポイントガード、頂点でボールを持つ、攻撃を開始する役割、同時にターンオーバー(攻撃権の喪失)を起こしてはいけない責任、何よりゴールに近づいたのだから、タッチダウン(マークを外した味方に)パスを通せる能力が問われる。
この点、山中は頂点のポジションでは危なっかしいプレーが目立った。
恐らく、当初は、走力や突破を武器にしない、内側方向が好きなユンがDFラインの前にあるハーフスペースに、そして開けた大外を山中、頂点のポジションに扇原、という流動的な構造を構想していたのではないだろうか。
実際に、ユンが出た時だけは(それほど多くないが)、山中がタッチライン際をオーバーラップするシーンを目にする事が多かった筈だ。
面白いのは、シティでも、今季はメンディが怪我をするまではサネを使わずに、メンディがオーバーラップする展開が多数見られた。
今季はユンのフィットや怪我、ブマルの枠、色々問題が起きて選択肢がほぼ無いに等しい状態であったが、来シーズンは山中に頂点を位置取らせない、タッチラインを主戦場とする構造が望ましいのではないか。
また、一方で、今季の4得点は全て、右サイドからのサイドチェンジ、及び、その展開からきたボールを蹴り込んだミドルシュートであり、ボールと逆サイドの時はサイドはウイングに任せ、カウンターに備えて内側で備える、だけで、得点力という特徴がスポイルされる事はないだろう。
オプション(選択肢)
逆に、山中が使えない時の選択には大きな疑問が残った。
サイドバックが本職の選手(下平)を差し置いてイッペイを使った事ではなく、ウイングが走力を武器にする遠藤なのだから、組み合わせとして、頂点の位置が得意な、クォーターバックの資質がある選手を配置する、絶好の機会だったと言える。
例えばシティを例にすると、サネというスピードを武器にするワイドレシーバー(ボールの受けて)と、ジンチェンコというクォーターバック(配給係)、という組み合わせは相性が良い。
走力タイプ メンディのボールタッチ分布(ニューキャッスル戦)
サネを出すとプレーエリアが被るのは一目瞭然、ウイングの選手をインサイド型にする必要がある。
頂点タイプ ジンチェンコのボールタッチ分布(ボーンマス戦)
タッチラインを主戦場とするサネと住み分けが完璧。
山中が居るのであれば、前述したように、ウイングには山中の特徴が活かせる選手、そして居ない状態で円滑な左サイド攻撃を行うのであれば、左サイドバックは現状のマリノスで唯一、その資質を持つ選手、扇原が望ましいだろう。
これらの選択肢を想定すると、山中の出場時には多才な仲川を左にするウイングの左右配置転換、そして不在時には喜田に期待しつつも、アンカーのポジションで補充が必要になるかもしれない。
おまけ 与太話(遠藤)
恐らく今、Jリーグで1,2に(スプリントが)速い選手。
今季、サプライズを与えた大津と、喜田の違いは、気持ちだけではなくスプリント力という物理的な物も大きいと思われる。
それは時速31km以上、速度という質が喜田には無く、大津にはある。
この点で、時速34km以上を記録する質、スプリント数でもトップレベルな遠藤も、大津の様にインサイドでチャレンジさせても面白いのではないか、と妄想している。
ハイ(敵陣)プレス、被カウンターの局面でインテンシティ(強度)が足りないチームを助けるのではないだろうか。
更に先を見据え、オリンピック、日本代表をテーマに話をすると、堂安、南野、そして中島も2大会くらい行けそう、だとすると、特別な攻撃的センスが問われるポジションより、それとは別方向の稀有な才能をインサイドで活かした方が、カンテの様なオンリーワンの選手になれそうである。