優勝から9位。
勝ち点はマイナス23と、30%以上の大幅なダウンを記録した2020年の横浜F・マリノス。
一方で得点数は68を記録した昨年から1増えた69と、水準は維持しており、連覇、更にはアジアチャンピオンという飛躍を目指したチームにとって、大きな足枷となったのは21も増えた失点数なのは間違いがない。
もう一度水準を取り戻し、タイトルを戦えるチームになれるのか、その問題は解決できるのだろうか。
DATE by フットボールラボ https://www.football-lab.jp/
シーズン60失点もあり得る
まず、現状を把握しよう。
同じく50点以上失点した2018シーズン(56失点)は、実の所、2018年内に問題は解決しており、新シーズンが始まる前に不安は解消していたのは以前に書いた通りだった。
だが、2020シーズンにおいては、思い出したかのように突然4バック(ウイング有りき)に変えたことで、ラスト9試合で20失点 と、むしろ問題は増幅した状態でシーズンを終えており、2021シーズンに向けて大きな懸念点であり、問題が解決しているとは言えない状態である。
この点について、今年は異例の超過密日程(特にマリノスだけ)、疲労で走れない、その為にプレス強度が落ちた、という仮説があるが、少なくともデータ上ではそれを確認することが出来ない。
より先鋭化したマリノス
2019シーズンにおいて、チームの総走行距離が116km未満だった試合は
2019 34試合中 13試合
2020シーズンにおいて、チームの総走行距離が116km未満だった試合は
2020 34試合中 4試合
共に退場者が出た試合がワーストを記録したが、2019シーズンは77分に扇原が退場した鹿島戦で、104.33kmで、2020シーズンは40分で高丘が退場した川崎戦の106.68km。
また、2020シーズンは前半に退場者を出した1試合を除くと、残りの3試合全て114km以上を記録しており、113km未満が6試合もあった2019シーズンよりも遥かに走行距離は増えている、と言える。
マリノスにも5人交代制の恩恵があった部分があるのでは、と推測できる。
またフットボールラボ独自指標として、AGI・KAGIというものがある。
AGI 攻撃時にどれだけ相手ゴールに近づけたか
- 攻撃時間のうち、相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間の割合が高い
- 攻撃が始まってから、敵陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が短い
場合に高い評価となるように指標化しています。
KAGI 守備時に相手の前進を許さない、ゴールに近づけさせず終えたか
- 相手の攻撃時間のうち、自陣ゴールから遠い位置でボールを持っていた時間の割合が高い
- 相手の攻撃が始まってから、自陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が長い
場合に高い評価となるように指標化しています。
これは受け取り方として、チーム同士を比べるよりも、マリノスの様に継続したプロジェクトにおいて、その進捗を見るのに適したデータではないかと考えている。横よりも縦で見ろ、みたいな。
なので、単純に、上がれば良い、高ければ良い、という数値ではない。
2018年シーズン
2019シーズン
2020シーズン
チームはより走り、そして、より敵陣ゴールに近い位置でプレーする傾向をとても強めた、と言える。
年々と強まっているのだから、これは、より監督の目指すべき状態になっているとも言えるだろう。
で、失点が激増。
なんでやねん
被ゴール期待値から見える堅牢さ
例えば、マリノスに比べて、2つの大阪を本拠とするチーム、セレッソとガンバの印象はどうだろうか?
実は、この2チーム、実際の失点数はマリノスよりも、かなり少ないが、確率的な失点数、被ゴール期待値ではマリノスを下回るのである。
※ ゴール期待値とは
チームが獲得又は、受けたシュート機会において、AIによって統計的な積み重ねを分析した、『J1で標準的な能力の選手がシュートを打ったら何点決まるか』という数値。
2020シーズン 被ゴール期待値
マリノス 1.357 実失点 1試合平均1.6失点
セレッソ 1.400 実失点 1試合平均1失点
ガンバ 1.675 実失点 1試合平均1.2失点
マリノスは1試合辺り、0.243点を必要以上に失点しており、シーズンで8点以上の損失
一方で、セレッソは1試合あたり0.4点も失点を防いでおり、シーズンで13点以上の利益
この期待値からの損得幅は21になり、セレッソがシーズン37失点で堅守と言われ、マリノスは22多い59失点で守備崩壊と言われる、状態となっている。
この差は何処で生まれるのだろうか。
唯一にして最も落ちたのがコンパクトネス
ポステコグルー監督就任以降の横浜F・マリノスにおいて、顕著な傾向が出ているのが、コンパクトネス、最終ラインの高さ、ハイプレスである。
2019シーズン 38失点
2020シーズン 59失点
前項で示したように、2020シーズンはより監督の意向が反映され、走力及び敵陣ゴールで近い位置でのプレー時間が増えた為、最終ラインはより高く、そして敵陣でボールホルダーに対してのプレス(距離を詰めるダッシュ)が増えている傾向が出ている。
一方で、大きく数字を落としているのがコンパクトネス、ボールホルダーにプレスしていない時における守備陣形の広さだ。
今季の傾向は前年よりも、56失点した2018シーズンに近く、マリノス単体で見たとしてもコンパクトネスの低下に関連性を感じざるを得ない。
2018シーズン 56失点
また、前述した被ゴール期待値はマリノスよりも高い大阪の両チームにおいて、コンパクトネスが高かった事も注目したい。
被ゴール期待値から実ゴールを引いた差分において、つまり利益においてリーグ1位と2位が大阪の両チームである。
セレッソ 37失点 被ゴール期待値 1試合あたり0.4利益(リーグ2位)
ガンバ 42失点 被ゴール期待値 1試合あたり0.475利益(リーグ1位)
一方で、そもそも被ゴール期待値が低い1,2位は川崎と名古屋だが、どちらもコンパクトネスは低い。
だが、両チームともマリノスとは異なるコンセプトであり、ハイプレスはかなりするけどラインはそれほど上がっていない(川崎)、撤退時に横に大きく広がるので数値が低くなる(名古屋)など、この2チームは、そもそもコンパクトネスと守備力との関連性が薄いと言える。
一方でマリノスは2018、2019、2020を比べると、関連性が強い傾向が見え、低下はイコール、悪化と捉えてよいだろう。
マリノスのコンパクトネス
2018 41 56失点
2019 58 38失点
2020 47 59失点
収支の悪化が伺える被攻撃回数の増加
もう一つ気になるデータが、被攻撃回数となる。
元からマリノスは、川崎や名古屋と比べると、攻撃(ボール保有)権の移動が多いチームであり、にもかかわらず支配率が高い。
この異常さこそが、走力を資本に、ハイテンポという時間による圧殺を目的とした、シティとは一線を画す、ポステコグルー監督のアタッキングフットボールなのだが、それにしても今季は敵の攻撃回数が多すぎた。
※ 以下は1試合平均の数値である
2019シーズン
2020シーズン
ハイテンポで攻撃権が行き交うのは良いとして、今季は敵の方が回数が多く、その結果、被シュートも1試合平均で2.1本も増加している。
奪うよりも失う回数の増加、これはJ1リーグの傾向として、ハイプレスに取り組むチームの増加であり、GKを含んだビルドアップを導入したチームの増加、ポジショナルプレー的な概念の伝播など、敵チームの奪う力と交わす能力向上が、如実に反映した結果かもしれない。
少なくともデータ上は、2019シーズンと比較して、より攻撃権が移動するハイテンポ化は進んだが、保持できなくなり、奪えないチームになったと言える。
ボール支配率 61.4% → 58.1%
その結果、敵に撃たれるシュート数がシーズンで71.4本増えた。
また被シュート成功率は約3%も悪化しており、10.2%→13.0%、より悪い状況で敵の攻撃が始まり、最終的に悪い状況のシュートを受けているのも、被ゴール期待値と合わせて伺える。
つまり、前項のコンパクトネス低下から、より空間がある状態で攻撃を受け、更にボールが持てない結果、より悪いシュートを、より多く打たれたのだから、失点も増えると言える。
Jリーグの進歩と新競技への対応
ファッションの世界には、朝令暮改ではないが、朝のトレンドが夕方には時代遅れになる、的なセリフがあるらしい。
現状の不安としては、超過密日程などをエクスキューズ(言い訳)に出来るマリノス側の低下ではなく、対策という枠を越えて、ポステコグルー監督に時代が追いついた、もっと言えば優位性を失った可能性がデータからは伺える。
そもそも、リーグ屈指のハイプレスをみせた川崎がそうであるし、チャンピオンズリーグを制したバイエルンも、チームの総走行距離は106km程度であり、強度が高いハイプレスを実現するにあたって、走力に依存し過ぎなのではないだろうか。
また、リスクに目を瞑り、本当にそこまでラインを高くする必要があるのだろうか。
スーパーなタレントが居ないJリーグであれば、一撃で裏を取られずに安全な位置に立って、例え一旦DFラインの前にパスが通っても、遅らせられるので2列目のプレスバックで十分、という割り切ったチームが成功している。
更に、監督が抱える矛盾として、そこまでハイテンポを求めるなら、もっと早いタイミングで敵ディフェンスラインの裏を狙う、ロングボール攻撃を使用するべきではないだろうか。
(自陣でボール保持時における30m以上のロングパス使用率はリーグ17位)
速いアタッカーを揃え素早くスペースを突き、ハイテンポで敵に考える時間を与えずに、より敵陣ゴールに近い位置でプレーしたい、グアルディオラではなく、クロップを参考にした方が良いのではないだろうか。
少なくともロスト数は今と変わらずに(これ以上は悪くならずに)、なおかつ自陣ロストによる、悪い状態で攻撃を受ける事が減るのは間違いない。
チームが低迷をすれば、過度な選手補強を求める声が高まるが、今のマリノスには十分な戦力があり、問題はフレームに存在する過剰というタコツボと矛盾、そして統計的には効果的ではない適切な戦力運用の修正ではないだろうか。
デトネイター detonator (起爆装置)が必須
一方で、必要な戦力は存在する。
2020シーズンに分かった事として、給水タイム採用による4ピリオド(4分割)化、そして5人交代制度はサッカーという競技を、別の新競技に変えた。
マリノスは従来競技における2019シーズンのチャンピオンであり、川崎は新競技におけるチャンピオンと言えるだろう。
その点で、新しいチャンピオンから学ぶ事はある。
今季、MVP候補にもなったのが三笘薫。
彼は30試合に出場したが、その内、プレータイムが50分未満の試合は19試合にも及び、正にパートタイマーであり、新競技の選手と言える。
先発は11、フル出場、それに準ずる85分以上出場は僅か5試合であり、旧世代の人物が多いであろう選考において、MVPに選ばれなかったのは理解ができる。
また同様に、エースと言われた小林悠も、全27試合中、先発が13、更に14試合が45分以下の出場にとどまっている。
一方で、好調な川崎の中には僅か1ゴールだったアタッカーもいるようだが、両選手、三笘薫は13ゴール12アシスト、小林悠は14ゴール4アシストと、正に新競技に対応した活躍を見せた。
マリノスに十分な戦力はあるが、それはあくまでも旧競技の水準。
1ポジション2人のコンセプトにおいて、予備の選手はいるが、新競技において、ゲームを決めるラストリゾート(切り札)が無い。
リフレッシュ以上の期待を持つ選手、それは観客も、仲川が疲労で仕方なく交代するとして「正直、厳しくなるな」と感じる様な選手では駄目だということ。
特にアタッキングフットボールの尖兵となる、結果なんて無視してでも監督が拘った両ウイングには、ただ出来るだけではなく 破壊的なプレー が可能なクオリティを持った選手を、パートタイマーとして用意できるかどうか、これは本当にチャンピオンを目指すのであれば至上命題となるだろう。
そして、このタスクが与えられる選手はパートタイムで運用するからこそ、過密日程でも30試合以上で使えるとも言え、チーム数も増える2021シーズンでは、レギュラー選手と同じく、トータルで1800分以上はプレーすることになるだろう。
そういう意味では、かつて活躍した”大魔神”佐々木主浩的でもある。
三笘と同レベルで
破壊的な…
プレーが…
可能な…
デトネイター(起爆装置・雷管)が!
画像引用元 https://twitter.com/prompt_fmarinos/
お後がよろしいようで
湘南の畑大雅は今シーズンのサプライズであった。
元は、右サイドの選手らしいが、左でも問題なくプレーし、この点、左右でプレー可能と言え、秋以降レギュラーポジションを掴み、殆どの試合で走行距離3位以内、スプリントに関しては全13試合でズバ抜けた回数を記録した上での、1位である。速い。
昨年はU-17ワールドカップでプレーしていた、2002年生まれの18歳というのだから末恐ろしい。
もっと攻撃機会を得られるチームで、潮流(ブーム)に乗り、両ウイング&両サイドバック可能な、ポリバレントなパートタイマーとしてプレーしたら、強烈なインパクトを残すだろう。
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