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横浜F・マリノス かく戦えり 2021シーズンを統計的に振り返る

横浜F・マリノスは2021シーズンをどの様に戦ったのか。

そこに見られる変化は、監督の評価は、各選手の活躍ぶりは、どの様な物だったのか。

 

フットボールラボのデータを元にまとめた

 

 

大幅な改善が見受けられたのは守備

 

1試合平均0.9失点は、昨年の1.6失点と比較すれば、2021シーズンの最も顕著な変化と言える。堅守のマリノス復活と言ってもいい。

 

それに直結する数値として、被シュートが1試合平均12.7本→10.5本と優勝した2019シーズンを越えた。

 

また、実際に打たれた被シュートの成功率も13%→8.8%と、敵チームは決めるのが難しいシュート、確率が低いシュートを打たされている傾向が見えた。

 

順に並べてみると、敵チームの攻撃機会が減り、次にシュート機会も減少し、その成功率も低いものになった。

 

その被シュート成功率の低下に関してはマリノスの守備エラー、鹿島戦でだけは何度もあったような出来事、個人ミスや、エキセントリックな対応をした結果に発露するオフサイドトラップの失敗から起きる、敵のイージーショットが無くなった事があげられるだろう。

 

そして、優秀選手賞に選ばれないのが最も不思議な選手として思い出される、高丘陽平がもたらした安定とビッグセーブに、10年戦える確信を持てた人も多いだろう。

 

 

一方で、これまでマリノスにおいて、良い守備のバロメーターとなっていた数値は軒並み下がっている。

 

ハイプレス指数 52(成功率50.3%) → 44(成功率53.8%)

最終ライン指数 81 → 61

攻撃→守備の走行距離における敵チームとの優位性 74 → 54

コンパクトネス 47 → 40(非プレス時における守備陣形の面積 ※広くなっている)

 

 

これは以前にも記事にまとめた通り、優勝した2019モデルとは根本的な構造が変わったと言える。マリノスのデザインはバージョンアップがなされた2021モデルになった。

 

speir-s.hatenablog.jp

 

最終節のように、地上戦に限定された川崎の様な相手であれば、むしろ相性は良いが、GKを交えたビルドアップの理論が普及した事、更にそれと組み合わせた、ボールロストよりもマリノスのハイ(敵陣)プレスでショートカウンターを喰らわないリスクヘッジであり、最も簡単な回避方法として、ロングボール戦術を用意してくるチームが増えた。

 

マリノス戦だけは『これをやりきろう』と決めてくる相手との対戦において、理想としてハイテンポで殴り続けたいとしても、総合的に見れば、より効率的にアタッキングフットボールをする上で、我慢が必要になった。

 

 

その点で言えば、GKからのビルドアップに対して、見えてる地雷を踏みに行かずに、黙々とサンペール-イニエスタを消し続けて耐えた神戸戦などはそれの究極的なゲームであったし、ロングボールを散々蹴られ続けても危険なシーンは一つもなかった。

 

まぁ自分達のボール保持がボロボロ過ぎて、自陣ロストの連発となり、低い位置で守る時間が必然的に増加してしまい、シュートは多数打たれたのだが、それは札幌、湘南、J1史上初、20位という最下位で降格したチームなどの対戦でも見えてきたビルドアップの問題であって、そちらも、さらなるバージョンアップが求められると言える。

 

 

 

監督交代

 

シーズン途中に、マリノスという特殊なチームに就任するのは簡単な事じゃない。マスカットは継承者としての役割を十二分に果たしたと言える。

 

一方で、難しさも多く見えた。

 

2021モデルというバージョンアップ、変化は間違いなくあったとして、だからこそ鹿島戦の1失点目は一体何だったのか不思議で仕方ない。誰も近寄りもしない完全オープンなGKに対して、ディフェンスラインはハーフラインに位置し、裏に蹴られるやディフェンスラインは後方に走りながら対応して、あのゲームの方向性が決まるミスが発生。

 

内情は不明だが、外から見るだけの感想として、首位川崎を猛追していた高揚感に飲まれていたとしか思えない。

 

バージョンアップの指標として上げた項目においても、最終的には以前に記事を書いた時とほぼ同じ数値に落ち着いたが、8月後半のゲームから、つまり勝点を落とし続けた時期において、改善を見せていた各項目が裏面に反転する勢いで、2020シーズンの様な数値になっていた。

 

 

これにはいくつかの試合でセットプレーから先制点を早々に献上した事で、逆転への焦燥感を抱えたプレータイムが多くなってしまった、という展開の妙もあるかもしれない。

 

だが、そもそも21試合が終わった時点では5失点しかなかったセットプレーからの失点が、それからの17試合で7失点と、終盤戦に1点が重い試合が続く、勝利しか許されない状況において、かなりのブレーキになったのは間違いない。

 

 

より直接的な監督の裁量という点で見ると、連続する中2日の日程において、前2試合で続けて終盤に足がつり、直近試合では最後の数分プレー不可能だった畠中の先発起用も含めて、8月末の鹿島戦は大きなターニングポイントとなるゲームだったと言える。

 

渡辺皓太の退場を招いたリスク管理など、戦力が均衡したリーグで、高いレベルにおける経験の少なさを思わせる場面も見受けられた。

 

 

また、下位チームとの対戦が続いた夏場など、一時期は上手く行った事もあったが、より苦しいゲームではユニットの関係性、補完性を考慮しない結果、闇雲に見える選手交代で明らかなパワーダウンを招くなど、やはりシーズン中の監督交代はダメージが皆無とはいかなかった。

 

所有戦力を掌握、熟知した指揮官の強みという文脈において、優勝チームも戦力という点では夏に大きな痛手を負ったはずだが、個々の特徴を含めたチーム戦力を知り尽くした事による戦力の運用という点で、一日の長を見せられたと言える。

 

 

 

最強の右サイドアタック

 

矛盾という言葉があるが、Jリーグにおける矛という点ではマリノスの右サイドが上げられるだろう。

 

比較として、マリノスの左サイドアタックを見ると、シュート率12.9%(リーグ9位)ゴール率0.7%(リーグ15位)と奮わない数値を記録。

 

一方で右サイドはシュート率16.7%(リーグ1位)ゴール率2.2%(リーグ3位)、右アタッキングエリアにおけるプレー機会も他チームとの比較において突出しており、リーグ最多得点チームにおける主武器と言える。

 

右サイド攻撃指数、1位マリノス81.8 2位広島60.2  川崎53.3

 

 

攻撃関与の項目を見るとラストパス機会はエウベル、小池が並び、メインシューターは前田と、右サイドからの攻撃が機能したからこそ、左の前田が中でプレー出来る機会が増えた結果、ゴールを多数生み出せる構図が生まれたのが分かる。

 

また、水沼、仲川など、プレー時間(機会)の限られた二人も、それぞれ9アシスト、6アシストを記録している様に、一定以上のクオリティを持つ選手が入れば機能する構造が出来上がっていたと言える。特に水沼のプレー時間辺りのアシスト数はサカつくなら神の領域と言える。

 

 

 

中央と左

 

リーグ最多得点のチームなのだから、全般的に攻撃は上手く行ったと言える。

 

例えばマルコスは得意の左足ショットが尽く僅かに逸れた事で総ゴール数は若干減って9ゴールだったが、一方で5アシストを記録しており、いわゆる通れば一撃の勝負パスも多く、敵も一番警戒するエリアで機会こそ少ないが、中央攻撃をする上で欠かせないキーマンなのは変わらない。

 

サイドが他よりも突出して多すぎるだけで、中央攻撃の機会もリーグ4位、そしてクオリティという点で見れば中央攻撃のゴール率6.3%はリーグ1位であるし、そのエリアから最もラストパスを送ったのはマルコスである。

 

 

問題は右サイドと微差くらいにプレー機会があったのに、ゴールはおろかシュート数も奮わなかった左サイドからの攻撃と言える。

 

何しろ最もシュートを放ったのが、残念ながらアタッカーの中ではシュート成功率が一番低いエウベルであるし、そして最もラストパスを蹴ったのが前田となっている。

 

あえて単純化して言えば、ラストパスを蹴るのが前田で、シュートを打つのがエウベルだと、この貧果も納得の数字と言える。ちなみに左サイド攻撃から生まれたエウベルのゴールはゼロとなっている。

 

※補足 清水戦の前半3分において、左サイドをスルーパスで抜け出した前田→エウベルで1ゴールあるが、アタッキングゾーン左で行われたプレーは前田のクロスのみなので、連続したプレーを要件とする左サイドアタックとしては集計されていない。

 

 

つまりこれは、左サイドからの攻撃ではクロス、シューター共に、オープンな状況が必要だったと言える。

 

オープンになるのであれば右だろうと左だろうとマリノスのアタッカーなら高いクオリティを発揮できるのは自明の理であるが、オープンにならない状況でどう打開するのかがマリノスにとってはメインテーマであり、左からの攻撃ではスペースを消されるとスタックしてしまった、とも言える。

 

 

更に、ほとんど右でプレーした小池が左でもラストパス機会4位なのと比較すると、ティーラトンは前年3位だったが、2021では5位にすら入っていない。前田がいなくなる事も想定されるだけでなく、改善の必要性を最も感じるセクションと言える。

 

エウベルの左起用など、他のアタッカーとの兼ね合いを考慮すれば、左サイドにも小池のようなリーグ水準以上の機動力を持つサイドバックを用意するなど、編成面においても最重要項目かもしれない。ティーラトンの入れ替えもあり得る。

 

例えば現有戦力の活用という点では、岩田に複数ポジションを求めるように、宮市は僅かながらドイツで経験したことを思い出してもらい、サイドバック起用もありなのかもしれない。

 

低調なことはクラブも既に把握しているだろうから、大きなシャッフルを予感させる。

 

 

 

新たなサイクルを望む

 

これほど1年前が遠く感じるシーズンは無かったのかもしれない。

 

2020年の12月7日はまだカタールにいて、アジアの頂点を目指しACLを戦っていた。

 

マリノスは残念ながらベスト16において、昨年チームの限界を示すような完敗を喫し、彼の地を後にしたのだが、もし勝ち上がっていたら決勝戦と同日に予定されていた、『絶対に変更はしない』と明言されていたJ1リーグ最終節は一体どうなるのか。

 

幻となった、ACL勝戦J1リーグ終戦の同時開催は2020年12月19日、そんな心配も遠い昔に感じる。

 

 

その後、シーズンオフに入ったマリノスは手堅く戦力を維持したかに思えたが、エリキを中国にかっさらわれ、やや緊急感をもって新加入となったレオであったが、コロナの影響でいつ合流できるのか不明のままシーズンインを迎え、エウベルも怪我等があり、開幕戦は高卒ルーキーの樺山がスタメンを飾るも結果は出ず、低調なシーズンインとなり、若干の不安を抱えていた時期も懐かしい。

 

余談だが、樺山は夏にプレー機会を求めて山形に移ったが、高卒新人としては十分であるが、エウベルが水準となるマリノスのアタッカーとしてはゴールを生み出す質までは見せられていなかった。

 

 

そんな今シーズンの入りについて、様々な事情から若干の出遅れ感があったのは間違いがないだろう。もっとも近年のマリノスは戦力編成においてはスクラップ&ビルドを繰り返しており、離陸体制が整う助走期間が必要なのは毎年恒例の感すらある。

 

だがこれは横浜F・マリノスが高いレベルを維持し続ける上で必要な事であり、それなりの金額を貰えれば欧州に選手を送り出してしまうやり方も含めて、昨今の情勢を見据えた結果、戦略として正しいと言える。

 

 

だからこそ野心のある選手が、得体のしれない転売屋よりも、マリノスを選ぶ状況が生まれる。

 

マリノスでゴールを量産する事よりも、辺境や周辺リーグに行くことは選手キャリアにおいて、ステップアップにつながるのか!?

 

選手市場という観点でみた時に、日本という生態系においてはマリノスはどちらかといえば買う側だが、より大きなスケールで見た時、その上にヨーロッパという規模が異なる市場がある限り、望まざるともJリーグのクラブは何処まで行っても、有望な若手をできるだけ高く売る育成クラブでしかない。

 

エースが中国に、フランスに、更にはまさかの監督に続いて、冬になれば当たり前の様にトップスコアラーも欧州に出ていく。一部の瀬戸内海方面では、怪物級の能力を持つ選手を使いこなせなかったチームもあるようだが、近年のマリノスはエース生産工場の様相をみせる。

 

入れ替えによる再整備に伴う、再起動のウェイティングタイムが若干発生するとしても、恐れずに踏み込んでいく。

 

そのサイクルを回す力こそが、優勝争いをし続ける力になり、継続された先にビッグクラブ、勝者のメンタリティ、常勝というワードが後から付いてくる事になる。

 

リーグ戦において10年の間、1度も最多ポイントになっていないチームは、最早常勝というワードが相応しいとは思わない。

 

 

特定の環境下で生き残るのは強い生物ではなく、適応した生物である。

 

 

 

P.S

最近はTwitterスペース機能で、マリノス試合後雑談など好き放題話す、とかもやってます。

ある程度、情報が出揃ったら来シーズンを語る、とかもやりたいですね。

 

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