残念ながら、2021シーズンのマリノスは2つのトーナメントでは早々に敗退してしまい(勝負の時期に何が代表招集じゃ、おのれ森保)、リーグでは監督引き抜きなどもあり異次元の領域までは至ること無く、覇権奪還はならず。
前回は横浜F・マリノスが2021シーズンをどの様に戦ったのか、成果として残された物=統計的数値をベースにまとめた。
今回は、残された数値という現実をベースに、編成面から希望観測的な改善点を考えてみた。
なお、他チーム選手の獲得については実現性を考慮はしつつも、基本的には好き放題言ってるだけである。あしからず
前田の代わりは
基本的に並びは変わらないものとして考える。
次に既知の情報として、前田大然は欧州に行くべき状態の選手になってしまったとして、絶対に一人は取らなければならない。
その際に、異次元の走力は代替不能として考えるしか無く、前田と同じ強みを持っている選手では数歩及ばない半端な補充になってしまうのだから、異なる強みを持つ選手を狙いたい。
早速、降格クラブのフリー案件という好条件な選手獲得に関するニュースが出ているが、実現した場合、スタッツから見える選手の能力と、獲得の意図はどのようなものだろうか。
キャリアのハイライトは2018年。
主に前線中央で使われ、通算1542分プレー、シュート本数53本、11ゴール、成功率は20.8%。大分で、J1のキャリアを築いていたオナイウと似た数値と言える。
そこから2シーズン、転売を目論んだ海外の移籍先クラブでは商品価値を上げる結果にはならず、残念な2年を過ごした後、昨シーズンに仙台へ帰還。
余談だが、前田もあれだけの能力を持ちながら1年を無駄にしていたことを考えると、良い選手を創り出して行こうのプロセスにおいて、とにかくヨーロッパへ行けばいいという、島国根性全開な無計画な移籍を、日本サッカー界全体で再考する時期に来ているのではないだろうか。
国内の有望な若者は欧州に行く前に、先ずシティグループの一員であるマリノスに行くのがいいだろう。
で、マリノスへの適合という面で、皆が気になるのは走力の部分だが、2021シーズンで直近の90分フルタイム出場したゲームを見てみると、総走行距離が3試合連続でチーム1位(前線でも11kmオーバーに達するタイプ)、スプリント数も前田ほどではないが高い数値を記録しており(20回を越えてくる)、突出した武器とまではいかないが、ハードワークをこなせるかという点で問題は見受けられない。
そもそも、降格が差し迫った終盤戦では何故か先発を外れる試合が多く、途中出場が続いているのが分からない。仙台にそんな余裕があるとも思えず、怪我等でなければ一体何なのだろう。追放されたマルティノスのように監督へ”意見”を言ってしまったのだろうか。
もしかすると、契約延長を拒否したことによる影響かもしれない「お前さては、ここで死ぬ気がねぇな?」信用ならねぇ、みたいな。
それはさておき、では果たして前田の代わりなのか、オナイウの代わりなのか、それが気になる所と言える。
具体的に言えば(ファーストトップも出来る)右サイド攻撃のフィニッシャーとなる左ウイングか、それとも(レオと競う)ファーストトップなのか、後者だと杉本はレンタルバックが確定だろう。
保有戦力という点で見ると前者の方が充足感があるが、前回のシーズンレビューで触れた左サイド問題が再燃する。
左サイド問題とACLの編成
右が矛として機能したのと比べると、左は右と同じくらい機会があったのに、チャンスメイク率、ひいてはゴールの効率が悪いという点で、機能していなかった。
これはビルドアップの問題ではなく、敵陣アタッキングゾーンでの問題である事を示すように、フットボールラボにおける左サイド攻撃の指数は、高い順で以下になっている
他チームと比較すれば、いかに右と同じくらい突出して敵陣左サイド深くでプレー機会があったのか分かる。右で崩す為に左を使っていた…なんて数値じゃない。ちなみに右サイドは82。
プレー機会は多数あったのに、シュートまでいけない。それと比例するように左サイド攻撃からのゴール率は 2019年2.0% 2020年1.4% 2021年0.6% と、皆さんの印象通りに年々と下落の一途を辿っている。
シュート率16.3%(リーグ1位)ゴール率2.1%(リーグ3位)の右と比べれば貧果は顕著だ。繰り返すが、構造として左サイドから攻撃をしていない訳ではない。
この差をより具体的に説明すると、100回攻撃した場合に、左サイドから1得点が生まれる確率は45%、右サイドは88%と、約倍の差が生まれていることになる。
ここで入れ替えの妙により、西村が前田のようにゴールを決め、エウベルのようにチャンスメイクしてくれれば理想だが、現実的にはシュートに至る過程として、見えつつある左右非対称の構造を受け入れて、完成させていく方向が堅実なのではないだろうか。
勿論、実は西村がオナイウの補填で、左にもエウベル水準のブラジル人選手を用意する可能性もある。ただ、外国籍の枠が3人から拡大の動きが見えているが、マルコス、チアゴ、エウベルが外せない上に、レオが1番手になる中で”ACLはどうすんねん問題”が残る。
だから金銭的折り合いは必須として、杉本は残す確率が高いかもしれない。
ボランチ
新たなサイクルの始動。
変革期真っ只中のマリノスに来て、チームと共にキャリアを再生させた扇原だが、マリノスではとても払えない値札が付いたのなら、諦める必要があるかもしれない。
もっとも、インに対してアウトも多いマリノスでは、ポステコグルー監督の就任以降、多くの選手が去っていったが、未だに補填が効かず、穴が埋まらないと懐かしむ選手はマテウスと遠藤渓太の左ウイングユニットくらいではないだろうか。
さぁ仕事の時間だ。
どうしても左利きにこだわるのであれば、J1でのキャリアなど条件を含め、希少性も高く、穴を埋めるのは簡単ではない上に、そもそも喜田、渡辺皓太、畠中の復帰を機に岩田を一列戻すとしても、枚数も足りず ”勝ち点80を目指す水準で” 早急な対応が求められる。
實藤や角田よりも岩田を使い続けたように、センターバックとボランチは畠中が戻っても、ギリギリの戦力である。
この点で扇原と、長いパスを蹴れる特徴を含めて、スタッツの類似する札幌の高峰などは分かりやすい代替手段ではある。
ボランチは90分出るとなれば、全局面に関与するべく、チームで最多走行距離が求められるマリノスのスキームにおいては活動範囲=カバー範囲の部分で若干の不安を残す。
強みとしては、扇原と比較した場合にデュエル回数&勝率、ドリブル回数&成功率などに優位性があり、喜田と渡辺、扇原の特徴をコンプリートするポテンシャルを感じさせる選手ではある。
だが個人的には、今オフに、いかなる手段を用いても手に入れるべき選手がいると考えており、既報通りに、その予算が神戸から獲得出来るのであれば、格好の機会だと言える。
センターバック、右サイドバックが可能な岩田にボランチをチャレンジさせているように、センター&左サイドバックとしてプレーしている、柏レイソルの古賀太陽にマリノスのボランチを挑戦させたら化けるポテンシャルを感じる。
角田をどこまで、どのレベルの大会で、何分プレーさせる事が出来ると考えているかにもよるが、連戦の中で畠中を壊してしまった同じ轍を踏む訳にはいかない中で、古賀はプロ選手として十分なキャリアを持ち、蹴れる&持てるセンターバックとしてもプレー可能だ。
特徴として、たまに”やらかす”のは昨年までの畠中を彷彿とする。
……この様に、最終ラインとしても一定の計算ができる能力もあるが、マリノスでは一列前、よりボールをプレーする機会を与えたら、と期待できる選手であり、個人的に3シーズン注目した観点から、安くはないとしても、投資に値する選手と考える。
この背景として、カレンダーを考慮すれば、2022シーズンはリーグだけでなく、W杯アジア最終予選は勿論、ACL、ルヴァン、天皇杯、そして11月21日にはワールドカップ開幕を控えており、再びとてつもない過密日程が待っている中で、複数ポジションでプレーできる選手の重要性は高まるだろう。
リーグ戦はおろか、ACL、ルヴァンと天皇杯も『11月上旬には終わってないといけない』
この前提が共有されなければならない。
天皇杯は12月中旬以降にベスト8以降を開催すればと思ったが、田島が11月までに終わらせる宣言をしたので、誰も逆らえないのだろう。
その結果、もしかしたらルヴァンとリーグ戦の残りを12月中~下旬にやる日程もあるのかもしれない。まぁ11月までに詰め込むだろうし、それは2試合の為に1ヶ月半休むか?みたいな。
なお、古賀は右利きらしいが左利きと言われても分からない位、両利きの選手である。
古賀 太陽 23歳 182cm/76kg J1通算 6660分 J2通算 5015分
2021 37試合 先発フル出場 3325分 CB 28 LSB 8 RLB 1
「もっとボールをプレーしたくないか?」
「王者を目指すチームでステップアップする時期に来ているのでは?」
デトネイター(起爆剤)とマルコス
そもそも、ここ2年、左ウイングに入って上手くいく選手がいない。攻撃効率を示すデータでも、その傾向が年々と強くなっているのは前段の通りで、2019年時点ではリーグ最高峰だった戦力を失った補填を、今シーズンこそ解決しなければならない。
その中で前田は、新たな解決方法として、上手く行っている右サイドアタックに強く関与する事で、ゴールという結果を残し、左の損失を穴埋めしたと言えるのかもしれない。この点で代わりとなる選手も、その構造を引き継ぐのがスムーズだとしても、機会自体は多いのだから、改善が必要とされているのは明白だ。
先ず注目したいのは現有戦力の活用として、右サイドのデトネイター(起爆剤)として昨シーズンよりも短い時間でアシストを量産した水沼の活躍だ。
プレータイムがゴールに直結している事から、右サイドの攻撃効率上昇に最も寄与している選手と言える。
昨年の1109分で10アシストも驚異的だったが、2021シーズンは667分で9アシストと、正に2021シーズンはマリノスが”クラブの規模”を敵に押し付ける、5人交代制を使いこなした象徴と言って良い活躍を見せた。
また、仲川も、ゴールこそ少ないが6アシストしており、マリノスのファーストトップが、動くべき動きをすれば多数のシュート機会を得られるのと同様に、ウイングも多数のクロス機会を得られると言える。
つまり、右と同じ様に、左にも質の高いクロスを蹴れる事を最優先とする選手を用意すれば、J1最高効率の水沼と、同様の活躍が期待できるのではないだろうか。
この点において、今のJリーグ全体を見渡してもトップ5に入るのが天野だろう。水沼と比較してもドリブルという強みがあり、よりスペースの少ない、クロスを蹴る選手にオープンな状況が作れない状況にも強い。
2021シーズンではマルコスとプレータイムを共有する事が多かったが、上手くいかない試合では、いっその事、天野を左にして前田とレオの2トップにしてくれ、と何度思っただろうか。
ともかく、5人交代制で猛威を奮った効果は既に実証済みなのだから、自然とクロスを蹴る機会が回ってくる場所に最高の質を配備する、この水沼的ウイング運用は左でも試す価値が十分にあるのではないだろうか。何しろ現状は下落の一途なのだから。
去就は不明だが、ドリブル、デュエル、クロスという特徴なら、天野でなくティーラトンという選択肢もあるかもしれない。
実際の運用を想定しても、試合途中の交代において、2トップにはせず、左ウイングとマルコスの2枚替えを行うとして、味方とリンクし、橋頭堡となるスペースを探し、敵陣にスルーパスを打ち込んでいく、マルコスを代替するという意味では、山田康太の方が適任だ。
天野が入ることでサイド一辺倒になりがちに(それが効く時もあっただろうが)なってしまうことを防げるし、マルコスの役割を残しつつ、天野には左サイドで特別な質を発揮してもらえれば一石二鳥とも言える。
山田の特徴として、マルコスが弱さを見せる、敵が背後にいる状況でボールを守るプレー、更にはターンからのドリブルが強み。弱点はシュート成功率だけど、その点は天野も変わらないので、2番手を山田にしてもマイナスでもない。
右の水沼、左の天野、リーグでクロスを最も蹴るチームにおいて、左右に配備される最強クロサー。今季、残り15分で最も得点を決めたチームであるが、同時に得点を生み出せずに競り負けた悔しいゲームもいくつかあった。
更に来期はいかなる撤退守備をも、上から引き潰すような質を手に入れたい。
左サイドバック
構造の話になってくる。
西村を前田の代わりに考える、もしくはエウベルを左担当に回すにしろ、ティーラトンとの相性が悪い問題を無視できない状態になってきた。
何しろ、誰がウイングに入っても、左サイドから一定の時間をかけたプレーでは、年々とゴール率が急速に下落しているのが事実である。
和田は複数ポジションにおける3番手に必要だとして、2番手、又はレギュラーを争う選手が居ない状況は改善する必要がある、という動きなのだろうか。
現時点では、鹿島でプレーしている事からも、各種数値はオーソドックスなサイドバックであり、左サイドにも、ボールを一定時間持ちたがる選手ではなく、ランに特徴を持つ小池のようなタイプを用意する意図があるのではないだろうか。小池ほど特別に速いかは別として。
ティーラトンを入れ替えるのか、それとも競わせるのかは不明だが、入れ替えとなればもう1人が必要と、大幅な入れ替えが行われる事になるし、それ位の事を行っても驚きは無いセクションと言える。
前田が作り出した構造の継承をチューニングするとして、ウイングではない、セカンドトップ的な選手を入れる左右非対称を洗練していくのであれば、ウイングバック的なスピードを武器とする、ライン際が好きなサイドバックを必要とするかもしれない。
ニッチ(適所)、キャラクターに応じた住み分けとして、例えば左から行くときはボランチがセンターバックに降りて3枚で、ライン際で幅を取るのはサイドバック、という構造もあり得るし、この時、ボランチに左で蹴れるセンターバック適性もある選手がいるとスムーズにいくだろう。
勝ちしか許されないという状況で迎えた終盤戦、下位チーム相手にもビルドアップで大きな問題を残しているのが如実に現れた試合がいくつもあった。
2021シーズン、標榜するアタッキングフットボールで守備の安定性を高めることに成功したバージョン3.0と言える現行モデルを、更に3.1、3.2と改善していく必要性があるのは間違いない。
その上で、構造の鍵を握ることになる、左サイドバックの編成は注目点になるだろう。
レオはマリノスの仕組みで機会を得なければならない
オナイウが12ゴール、そして夏以降に、その代役となったレオが10ゴールで、杉本が3ゴール、通年レギュラーだった前田が23ゴールで得点王になった事を思えば、一見、十分に見える。
だが、レオのシュート成功率は15%に届いておらず、5アシストという補填はあるにせよ、マリノスのアタッカーとしては物足りない物だったのは間違いない。
近年、マリノスのファーストトップとしては歴代最低の数値を記録してしまった訳だが、詳細を見ると、問題の本質が見えてくる。
① ゴールに対するビッグチャンスミス数を見ると、実の所、レオは決定機のミスが少ない。(by sofascore)
前田 23G-15ミス オナイウ 12G-6ミス レオ 10G-2ミス
余談だが、エウベルのビッグチャンスクリエイト(決定機作ったけど味方が決めなかった)は16もあり、別に前田一人でもないだろうが、単純に彼が3分の1でも決めていれば、単独で得点王だったし、エウベルも優秀選手にも選ばれただろう。
前田、セルティックに行くよりも、まだマリノスでやるべき事があるのでは?
② 1本あたりのシュート期待値が特に低い
選手が稼いだシーズントータルのゴール期待値は加算方式なので、シュートを打てば打つほど増える物だが、前田が97本で18.286なのに対して、レオは68本で6.888しかない。
これを分かりやすく、1本辺りに換算すると、前田 0.1885 レオ 0.1012 とレオは期待値の低いシュートが多いと言える。
レオの1本辺りの数値はシーズンのゴール期待値上位20位までに入った選手の中で、古橋と並んでぶっちぎりに低い物だった。ミドルシュートを打ちたがる傾向が出ているのかもしれない。
その逆となる例として、オナイウは1本辺り0.2014 と前田より高く、エジガル(0.1937)を越えた。正にマリノス(アタッキングフットボール)のフレームに最も適合したファーストトップと言える。
単純計算で言うと、統計的にオナイウはシュート5本で1点になるが、レオは10本も必要になる、ということで、いかに決まる可能性が低いシュートが多いか分かるだろう。
ちなみに昨年、夏場の緊急補強だったジュニオールサントスですら、シュート1本辺り0.1390とレオよりも遥かに高く、7本で1点になる。
レオに得意の形、これまでのキャリアでゴールを重ねてきた経験があるにせよ『マリノスのファーストトップ』を習得することで、これまでとは異なるイージーショットが増えることを理解して貰いたい所。
仮にレオが1本平均0.190のシュートを50本打てればゴール期待値は9.5になり、今シーズンよりも3点近く向上することになる。イージーショットが増えれば差分も大きくなる為、15得点程度が可能だった筈だ。
オナイウは前年、9.1%に過ぎないシュート成功率だったが、今季は25.5%まで劇的に上昇したように、既に出来るはずの選手を獲得しているのがマリノスである。
新しく加入したファーストトップにとって必要なのは、能力の向上ではなく、マリノスのスキームにおける最適解の理解だと言える。
直ぐに適応したエジガルやエリキの様な怪物に慣れすぎてしまっているので、物足りなく感じるが、半年近くチームに合流出来ず、キャンプも経験できない中で、1年目はオナイウや前田よりも機能したと言え、可能性以上にゴールを生み出す能力があり、レオはまだまだ改善の余地を大きく残している選手だと言える。
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