横浜F・マリノスが標榜するアタッキングフットボールとは何か?
マリノスの試合後にX(エーックス)のスペース機能でざつだんをするコンテンツとして開催している『マリノス試合後ざつだんスペース』のアディショナルタイム、つまり追加。
今回は誰も言語化せず謎の標語として浮遊し始めた結果、失われたアタッキングフットボールについてまとめていきたい。
クラブと監督のコンセンサス(合意、意見の一致)
その役職名は時によるが、欧州トップシーンではスポーツダイレクター(チームの競技面における責任者)と呼ばれる役割が誰なのか曖昧な状態になっているマリノス。
ちなみに新体制発表会を見ると、かつては利重氏やドル氏、小倉氏が務めていた役割を24年は中山昭宏社長がやっている。
この点において「アタッキングフットボールを深化させる」としてキューエルを起用した中山昭宏社長はアタッキングフットボールに合意しているのか、いや、理解をしているのだろうか。
順を追って話をしていこう。
先ず、対外的に大きな勘違いがある部分として、アタッキングフットボールはポステコグルーが生み出した物ではなく、先だってマリノスの意思があり、それを実装する上で合意した監督としてポステコグルーと契約を結び、彼なりの手法でピッチ上に表現された物が、仮に第一期アタッキングフットボールとなる。
そして次に選んだのが、ポステコグルーの手法をよく理解し、そして同じくマリノスの意思に合意したマスカットであり、2位、1位、2位と結果を残した2年半を第二期アタッキングフットボールとする。
この点において、サッカーは相対的なスポーツで必ずしも毎回上手く行くとは限らないが、ポステコグルーとマスカットには明確にクラブとのコンセンサスを達成しようという意思を感じた。
一方で、今期においてそれは失われた様に感じるのだが、それが監督の能力、もしくは無理解であるのであればまだいいが、クラブ最高責任者となる中山昭宏社長の無理解であれば問題の根は深い。
アタッキングフットボールの中心にあった物
社長は新体制発表会でリーグ最多得点、これこそがアタッキングフットボールを、我々のスタイルを体現していると言った。
では、それを実現するにはどうしたらいいか、選手はどんなプレーをするべきなのか、ぜひ社長には一行で答えてもらいたい。
ポステコグルーと契約したアイザック・ドルは出来るだろう。
前線に優れたタレントを並べる?
昨シーズンと今シーズン、マリノスの前線にはロペス、ヤン、エウベルがいるが1試合平均の得点はリーグトップの1.85から、平凡極まりない1.4に激減中で、スタイルの体現からは程遠い現状になっている。
2018年の新体制発表会でドル氏が言った一言、これこそがポステコグルー、マスカットが同意し、実現を目指してきたアタッキングフットボールの中心にあった物である。
「バーティカルなプレーをしなければならない」
これはピッチをホワイトボードなどに書いた状態を見立てて、垂直に、縦に、ピッチ上で行われるプレーは常に敵ゴールへ向かう為のプレーでなくてはならない、という意思である。
サッカーというスポーツの真理と打開策とマリノス
例えチームにメッシの様な優れたタレントが居て、ボールを70%支配し、敵のゴール前でプレーをし続けても2,3本のシュートから失点し敗れる事もあるのがサッカーというスポーツである。
更にそれは自軍に特別なタレントが居なくなればなるほど勝率は落ちていく事になる。
その打開策として誕生した概念、理論が「ボールを奪ったら〇秒以内にゴールせよ」の究極トランジション&スペースアタックとなる。陣形が乱れ、スペースが残るうちに攻め切れという理屈は分かりやすい。
この点において、ポステコグルーはペップよりも遥かにラングニックやクロップのドイツ派閥に近い。
ポステコグルーはバーティカルに、素早くスペースを突いていく事を目的として、前線にラインブレイク能力に秀でた選手を配置し敵陣に迫り、ロストが起きた後のトランジションを追求し、更にリスタートの早さまでこだわり抜く徹底ぶりでリーグを制した。
スペースアタック、トランジション、この2枚のカードを表示し続け、ハイテンポで繰り返されると敵チームは混乱の中で失点を重ねる事になった。この為、最初から戦わない、後方のスペースを消してくる事に終始する相手には苦戦をした。
次のマスカットは基本的にポステゴグルーの継続を行っていたが、J1リーグにおけるボール保持の進歩により、ロングボールによる回避で失われる事になるトランジションアタック(ハイプレスからショートカウンター)の補填を模索する事になっていく。
23年、マスカットはプレミアリーグのブライトンで結果を出していたデ・ゼルビ式ボール保持を採用する。J1リーグ全体でハイプレスの頻度が上がりだした環境を逆手に取り、自陣の保持で敵を引き込んだ後に、一気に後方のスペースを攻めていく手法だ。
後方の保持がバーティカルなプレーには見えないかもしれないが、1段階の仕込みがあると考えればいい。
再現性をもって、設計としてスペースを素早く攻める攻撃する回数を増やすアイデアは良かったが、特に後方でそれを実現する選手がやり方に合致しない問題が残った。
一方でリーグ最多得点という、アタッキングフットボールというスタイルを体現したか、という点においては達成している。
前線3人だけがゴールとアシストを多く残す結果となったが、優れた選手にスペースが残る状況でボールを渡すという事が再現性をもって達成されていたという証拠である。
一方で、どうしても平均的なボールロスト位置が深くなり、結果として以前の様なカウンタープレス前提のやり方ではなくなった事でトランジションの意識が低下、未整備なミドルゾーン以降での守備の脆さが目立つシーンが増え、またロングボールによるハイプレスの無力化に答えを見いだせず、劣勢に感じる試合が増えてしまった。
またマリノスの自陣でのボール保持に一切付き合わない対戦相手、仁川、横浜FCに大敗を喫するなど、相手次第の側面と明確な課題も残した。
つまりキューエルが継続をするのであれば、ミドルゾーンの守備を整備、ハイプレスの再設定が目の前にあった課題となる。
失われたアタッキングフットボール
中間報告として、キューエルのチームは安定してボールを敵のゴール前まで運べているのは以前に紹介した通りである。
そら、質の高い選手が、ゆっくり丁寧に運んでいるからね。
その結果として、アタッキングフットボールの、スタイルの表現であるリーグにおける得点数は激減している。
とりあえずゴール前まで運んで、後はウイングさん何とかしてください、守備者は多く、ゴール前中央は数的不利で、スペースもありません。なのだからヤンが凄いプレーをしてくれるのを待つのみとなっている。
勿論、立ち上がりは強く行こうぜ!という感じで何となくハイプレスに来る敵チームが多いのだが、そういう時間だけはハイプレスを回避した結果、後方にスペースがある状態でヤン(ウイング)にボールが入るので良い攻撃が出来る。そして先制点も生まれたりするが後はお察しである。
ボーナスタイムは大体20分間か。
運んだ後にどうすんねん?
ヤンが持ったらハーフスペースに突撃すれば、ヤンなら2人に囲まれていてもそこにパスが出せる、という攻撃以外に、まるでプランが見えない。
更にデメリットとして、スペースを攻撃すると、敵の守備者は後方又は横を向いた状態で守備をするのと異なり、敵のブロックの前でボールを保持するという事は、敵の守備者は前を向いた状態でボールを奪いやすく、それはカウンターのスイッチを入れやすいという事を意味する。
リスク管理を含めた立ち位置の整備も甘く、ボールよりも前に人が多すぎるので奪い返しも絶望的な状況が多い。
サイドバックが上がるタイミングが早すぎたり、また喜田のアンカーが良くない点としては彼が後方で持つ事で一人敵陣から釣り出せる、それによってスペースが連鎖的に生まれるという意識が無さすぎる事だ。
味方がボールを持っているとほぼ確実に、前で受けようとするし、前が渋滞してスペースが無くなるだけで、このやり方におけるアンカーとしては適していない様に感じるがキューエルは修正しない。※福岡戦は出てないとご指摘があり修正しました。
普段は1試合平均のシュート数が10本ちょっとしかない守備的な対戦相手にマリノスだけは20本前後シュートを打たれるのは何故か。
極めつけはハイプレス合戦で有利に戦っていたが、相手が退場で10人になると必然的に敵ゴール前で何となくボールを持つ時間が増える結果、ロングカウンターを被弾し始め、余計に苦戦するという現象も繰り返し再現している。
更に、監督が何となく雰囲気で選手を並べ始めるのがリスクの増大に拍車をかける。
果たしてキューエルは何故バーティカルなプレーをする必要があったのか理解できているのだろうか。
そしてクラブの意思は何処へ行った?
合意を得たか以前に、中山社長はアタッキングフットボールの中心にあった物を理解しているのだろうか。フットボール的な知見をお持ちなのだろうか。
勿論、サッカーという答えの無い問題には派閥が、信仰があり、改宗をする自由もあり、社長、キューエル共にアタッキングフットボールを根底から作り直す覚悟なのかもしれない。
ドイツ的思想から離脱し、純スペイン教への回帰である。ペップ法王万歳。
確かに過去の栄光にとらわれていても進歩はない。
変化を恐れてはいけない。
ただ、根本思想が変わるのだから、かつてポステコグルーが行った様に、今期のスタメンと来期の最終節では、選手が15人以上は変わっていく事になるだろう。
先ずは毎試合観ている感想として、現在のスペイン代表を参考に喫緊の問題としてこの夏に必須な5人は以下になる。
浦和のグスタフソンが最低基準となるアンカー
かつて在籍した個でサイドの1対1もいとわない被カウンター対応に当たれるチアゴマルチンス級のCB
エリア内で大外からのクロスに合わせるのが得意な21年ダミアン級のCF
左でもヤンと同格以上に個で打開できる実績十分な右利きの左ウイング
高い質でビルドに関与可能なゴールキーパー
コーチ陣ではハイ、ミドルのブロックを整備できるディフェンスコーチも必須だろう。
それくらいのつもりで…
ちゃんと旧アタッキングフットボールを一旦捨てる覚悟で…
今回は改宗してるんですよね?
監督を変える?
そんな判断はまるで、何も理解せずにキューエル選んじゃいましたという告白に聞こえるのでドキドキしちゃいますね( *´艸`)
悪い意味で
いやー中山昭宏社長、シーズン移行を見越した夏契約化の24年夏のマーケット
マリノスを応援する立場として楽しみでたまらないです。
チアゴ、マルコス、エジガル、エリキ…続々とタレント獲得が続いたワクワク感再び!
期待してお待ちしております。