2024年11月、横浜Fマリノスで前任者の退任から異例の不在が続いたスポーツダイレクターに、浦和レッズで強化責任者を担っていた西野努氏の就任がチーム公式サイトにて発表された。
現在、西野氏は2024年8月からシティグループに在籍をしており、CFGからの派遣とも言えるチーム統括本部長※の就任は2017年の利重氏以来となる。※役職名は当時の呼称
経緯としてマリノスでは利重氏就任以降、アタッキングフットボールの設計者となったアイザック・ドル氏がスポーツダイレクターを名乗り、チューニングによりその継承を行ったとなった小倉勉氏が引き継いだ。
両者は共にトップレベルで監督も遂行可能な高いフットボール的教養を持つ人物であり、成功している欧州トップクラブ型の組織構造を模範に成功を勝ち取っていくのだが、今回の西野氏就任に伴い、その好循環を断ち切る結果となった”日産の社長”が強化責任者を兼任する旧来企業サッカー部的構造に終止符が打たれる事となったと言える。
特に現体制においては「2位じゃ満足できない」と宣言して始まったシーズンの結果が、全てのカップ戦で敗退した上で、J1残留争いでは言い訳無用だろう。(※ACLEは来期に引き継ぐ)
この大崩壊を生み出した、キューエル以下スタッフでシーズンを始めるという選択をするに至るような組織の構造から改善が図られるのは必然の結果と言える
さて、間違いを是正しようという姿勢が垣間見えた事は、応援するファン、サポーターにとって好ましい状況と言えるのだが、現状のチーム状態は余りにも悪くなりすぎており、そもそも「チームとしての勝ち方」すら失っている様に感じる。
先ずはどうしてその様な状態になってしまったのか、プロセスを振り返りたい。
マスカットの乱
2022年に若干、画竜点睛を欠いた終盤であったが、あらゆるスタッツデータでリーグを圧倒し、歴代チャンピオンの中でも上位に入る成績で優勝した横浜Fマリノス。
この時点で既に、ポステコグルー的な、抱えている矛盾とリスクを速さ(速度)と早さ(テンポ)で塗り潰す様な、暴力的でカオスなフットボールから脱却が図られていた。
それは走行距離における優位性が顕著なデータで、相手に対して明確に走り勝てなかった試合でも勝ち点が積みあげられる安定性がアップデートされていた。
そしてマスカットは2023年にそれを更に加速させる決断として、プレミアリーグで結果を出していたブライトンをコピーする様なロジックをチームに持ち込む。
J1におけるハイプレス強化のトレンド、流出した戦力、色々な事情が考慮できたが、今にしてみると、シーズン後により高いサラリーを求めていたように、監督としての野心が、もっと高い評価を得る事が目的だったのかもしれない。
だが結果こそ2位となったが、この試みはマリノスではあまり上手く行かず、押し込まれて劣勢な試合が多く、故に敵のゴールは決まらずにマリノスは少ないチャンスからゴールを決めるような理不尽な勝利、前線のタレントに依存するだけの試合が多くなった。
ここで気になった点としてはマスカットは大きくやり方を変えたのに、選手の入れ替えが殆どなかった事であり、シーズンが進んでいくと、それによってチームが機能しない場面が目立って行った事だろう。
振り返って思うのは果たしてこの大きな変更に、チームとマスカットの間にコンセンス、合意が存在したのだろうか?
フットボール的教養があるスポーツダイレクターが不在であるのを良い事に、優勝して権力が大きくなった監督がアンコントロールになった結果、好き放題やられてしまったのではないか、と考えている。
この時点でポステコグルーのチームとは完全に別物、チームとしての勝ち方が大きく異なる状態になっている。
キューエルと何を話したんだい?
そんなマスカットの後始末を引き継いだのがキューエル。
冷静に見れば火中の栗である。
何故キューエルを選んだのか、このプロセスは大いに気になる部分だが、
重要な事はそこではない気がする。
先の通り、実質マスカットがマリノスの競技面を掌握しており、契約交渉の結果、その全てを委ねてしまっていた人物が居なくなった結果、引継ぎすら行われず始まったのが24シーズンだったのではないだろうか。
その結果として、我慢不可能な成績の低迷であり、半年経ってからキューエルを解任する理由が「彼とはフィロソフィーが異なった」である。
スポーツダイレクターとはチームの競技面における監督者であり、それを社長と言うフットボール的教養がまるで無い人物が兼任する事により、マリノスから強いサッカークラブの作り方すら失われたのが良く分かるエピソードだ。
最早、マリノスにチームとしての勝ち方は存在していない。
それが如実に分かるのが暫定監督の選出である。
キューエルは違った、じゃヘッドコーチだったハッチンソンは正しいのか。
彼らに物差しが無いから正しいかどうかも勝敗という結果以外で判別不能なのだろうし、そもそも数か月の結果としてハッチンソンはポステコグルーのロジック、チームとしての勝ち方を理解していないのが良く分かった。
まぁ一緒に3か月コーチやっただけじゃ…後任のマスカットはクビにしてるし。
ただ、現状として社長兼スポーツダイレクターによる敗戦処理投手見殺し状態である事も忘れてはならない。現強化部もポステコグルー的な所に一回戻したかったとして、そもそもポステコグルーのロジックを理解できているとは思えないからだ。
ゆえにハッチンソンを選んでしまうし、ハッチンソンを助けられない。
あとは何とか選手が頑張って残留してくれるのを祈るばかりだ。
では、仮に今期は残留出来たとして、来年以降はどうしたらいいのか?
やり方はいくらでもあるのがフットボール、我々は何処から来て何処へいくのか。
プランA 目指せスペイン派閥 正統シティ派へ
フィロソフィーが違うと、なで斬りにされたキューエルであったが、あくまでその目指した方向性だけに限っていうのであれば、そんなに悪かったとは思えない。
何しろ前年は既にマスカットの乱を経ており、スペイン代表を模範とするようなポステコグルーとはかけ離れたスペイン派閥入りをするのはプロセスとして間違ってはいなかった。
ただ、監督とコーチにそれを実現する能力もなく、強化部すらフィロソフィーが異なると断じた様にフットボール的な教養不足を露呈し、目指す所すら理解をしておらず、つまり監督以下コーチ陣とコンセンサスも無く、その結果として戦力編成というバックアップも的外れだったのが失敗の理由だ。
J1リーグに正解を示したグスタフソンの様なアンカー、チームに正しい配置とボールの流れを落とし込めるヘッドコーチ、相手を見たプレスのプランやディフェンスの設計が可能な監督、過密日程でも出ずっぱりになる選手を生み出さないちゃんと使える監督も合意している戦力編成。
明確な意思を持ったうえで、監督とのコンセンサス、実務能力のあるコーチ陣の拡充、十分な戦力編成を行えば、もう一度チャレンジするのは何も間違いではない。
シティグループのネットワークを駆使して新SDである西野氏がチャレンジするのであれば期待をもって見守りたい。
プランB ポステコグルーに回帰は可能か?
結論から言えば、不可能だと考える。
先にも述べた通り、矛盾を抱えながらも理の外からなぎ倒す様な戦い方は、2019年当時のJ1リーグなら出来たのかもしれないが、プレスとその回避、走行距離やスプリント数の増加が進んだ、今の環境では論理的に劣勢になるだろう。
優勝するほどの安定感が出せるのか?
圧倒的な戦力を持てないトッテナムの現状を見ると分かりやすい。
速度とテンポが生み出す高強度、ゴールからカウンタープレスまでデザインされたボールの流れ、結果として生じる圧倒的な走行距離は継承可能ではあるが、
「そんなに後方でのボール保持にこだわる必要ありますか?」
「その論理ならロングボール蹴ればよくないですか?」
「守り方がロングボールに対してリスキー過ぎません?」
という矛盾を解消するアップデートが必要だろう。
この点で正しいアップデート、正に論理的にソリッド、無駄がないのがスキッペの広島と言える。
イメージはハイプレス、強高度というのがあるかもしれないが、広島は実に走らないチームであり、相手も走らせないチームである。
1試合総走行距離 17位
1試合総スプリント数 14位
敵陣にボールを蹴り込みプレス、持ったらパターンアタック、終わったらプレス、奪ったらカウンター、持ったら蹴り込み、またプレス。
常に敵陣にボールを送り込み続ける事で、上下の移動距離を制限し、攻撃も論理的にボールを動かして基本は配置で殴る、実の所はJリーグ的な走行距離で補填をするチームと異なる欧州型なチームである。
マリノスのプロセスとして自陣非保持、プレス回避の常套手段にロングボールを許容できるか、どうか。
プランネタ枠 大正義2位じゃ敗北です
一方、今年の続きとして一番分かりやすいのがレアルマドリードだろう。
チームとしての勝ち方は明確で、前線に最高のタレントを並べる。
それによって生じた凸を相手に押し付け、凹を埋める職人を揃える。
監督は十分な実績と経験を持つ百戦錬磨な人物が必須で政治力も求められる。
リーグにおける最低成績は9位、この四半世紀では4位が最低順位だ。
リーグかビッグイヤーを取ってこい、3位の監督はクビになる。
この場合、一番最初に入れ替え無ければならない選手はアンデルソン・ロペスだ。
今期は19ゴール、シュート成功率18%と一見すると優れた数字であるが、これはPKにより盛られた数字であり、13得点に対するビッグチャンスミスは16にも達する。
PK無し 13得点 シュート成功率13.13% ビッグチャンスミス16
参考 前田大然 23得点シュート成功率23.7% ビッグチャンスミス15
前田はマドリッドにおけるベンゼマくらいの働きをしてくれた。ロペスは昨年もPK以外の20ゴールに対してビッグチャンスミスは20だった。
また2列目は個で凹を埋める、1.5人分は守れる高アスリート能力を持った選手で固める必要が出てくるだろう。CBは言わずもがな。
つまりマリノスでは予算が足りないのは明白だ。