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横浜F・マリノスの再起 巻き戻した時計の針と2年越しの宿題

これまでのプロセスを理解した上で試合を観ていれば直ぐに分かるであろうクーデター。案の定、試合から1日で発表されたキューエル監督の解任。

 

その現役時代から続くスター性には魅力がある人物であったが、結果が何よりも最優先される監督という仕事において、半年間の仕事をピッチ上で自チームの選手に否定されては、もう居場所はなかった。

 

 

彼とはフィロソフィーが異なった。

 

 

今更、スポーツダイレクターを兼ねる社長から、ちゃぶ台返しを食らったのも不幸という他ない。こうしてみると彼もまた正しくないサイクルを回した漕ぎ手の犠牲者となったと言える。

 

せめてもの救いは喜田キャプテンの様な優れた人間性を持つ人物がチームをまとめていた事だろう。彼にとって横浜が忌まわしい最悪の地にならずに済んだ。

 

そして、選択と判断の過ちを認めた中山社長兼SD以下は横浜F・マリノスにとって時計の針を2年巻き戻す事を決断した。

 

 

 

最強のFマリノス

 

優勝をかけた終盤2戦、マリノスのベンチにはレオセアラ、仲川、ヤン、ジョエル、松原、角田が座っていた。

 

 

 

2022年、セルティックへ移籍したポステコグルーを継承しながら、2021年は戦力の疲弊により川崎を追いきれず優勝を逃したマスカットは完全なるプレータイム分散(岩田を除く)を実施し、またフロントもそれに応えるべく戦力を編成した。

 

 

例えば、昨シーズンのマン・シティにおいて80%以上プレーしたフィールドプレーヤーはロドリとフォーデンのみであり、一方でアーセナルでは5人程度だったというデータを見たのだが、22シーズンのマリノスで80%以上プレーしたフィールドプレーヤーは岩田という人並みの基準で考える必要が無い例外のみだった。

 

更には70%以上プレーしたのも両サイドバック、小池龍太と永戸のみという徹底ぶりであり、それを実現する正に誰が出てもマリノスと言える戦力編成だった。

 

 

プレー内容も圧巻で、ゴール数1位は勿論、シュート数、枠内シュート数、パス数、ボール保持率、30mライン侵入、ペナルティエリア侵入、コーナーキック獲得数、フリーキック獲得数、あらゆる攻撃スタッツでリーグ1位を獲得。

 

まさに強度が生命線となると見据え、それを常時維持するという方向でアタッキングフットボールを深化させる事に成功した。

 

 

 

のどに刺さる骨

 

一方で完璧かと言われれば、画竜点睛を欠いた。

 

勝てば優勝の中でまさかの2連敗、本来ならもっと勝ち点を伸ばし、2位以下を圧倒してシーズンを終えたという棋譜=歴史を残す筈だった。

 

ボールを70%保持し、パスを825本つなぎ、30mライン侵入は104回、シュートを25本放ち、ゴール期待値は3.045に達しながら、セットプレーの2失点で敗北したG大阪戦。つい最近みたユーロ2024のオーストリアには親近感を覚える。

 

(同年のJ1リーグ1試合平均 パス 461本 30mライン侵入 37.4回)

 

 

続く磐田戦もまるで判を押したような内容で、多数のシュートを放つも終盤のカウンターから失点し連敗となるなど、翌年以降にマスカットが後方のスペースを埋めてからロングカウンターで勝負してくる仁川、横浜FCに大敗する事になる前兆は既にこの時からあったと言える。

 

ただ、この手の古典的手法に対して敗戦する事はフットボールではよくある事であり、未だに明確な解決方法はなく、こっちの方がチャンスが多いのだから決め切って勝つしかないと割り切る事も出来る。

 

それよりもマスカットに、翌年の大規模な改変を決断させるゲームがいくつかあった。

2022年4月6日、マリノスがスキッペと初遭遇した広島戦だ。

 

 

 

流動性vsマンツーマン

 

ACLの絡みもあり日程的に連戦を強いられていたマリノスではあるが、22シーズンは選手層が違う、この日も誰が出てもマリノスを貫くつもりだった。

 

 

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だがスキッペの就任からゲームを重ね、スタイルが浸透し始めた広島の前にポステコグルーが就任して以降という流れで見ても、最も何も出来ず、ただただ90分が過ぎ去っていく様な、主導権を奪われ、一方的に蹂躙されるゲームとなった。

 

90分でシュート数は4本、枠内は0本、つまり得点の確率もゼロだ。いうまでもないがゴール期待値は0.154と悲惨な数字で、広島が多数積み上げた決定機一回分より下回る。

 

2回目の対戦では広島の弱点であるゴール前の不確実性もあり、サンドバックの様な30分を耐え凌いだことで先制点まで持ちこたえ、後半は選手層の差を見せつけて走行距離でも圧倒し3-0で快勝したが、戦力の薄い広島の疲弊に助けられた部分もあった。

 

 

同年は同じく札幌相手にも苦戦をしており、最終ラインが数的同数になるのも恐れずに、マリノス陣内に対してマンツーマンも厭わないプレスを仕掛けてくる対戦相手に課題を残した。

 

これはマリノスのビルドアップがGKと両CBの前で、2人のボランチが高い流動性を発揮し、それに応じてサイドバックも動いていく選手の判断において敵チームにポジショナルな(立ち位置による優位性を生み出す)戦いを仕掛けるのだが、

 

1人1殺!俺はお前!!どこまでも!!!という対戦相手が現れれば流動性による強みは完全に消える事になり、GK以外は常にハードなマークを受ける事になる。

 

例えば広島のマンマークは小池がピッチの半分を越えても離さなかった。

 

そして問題は一度ボールをロストすれば、マークを外そうと選手は大きく移動しており、陣地は崩壊、特に空いたサイドを活用してカウンターを受ける事になった。

 

 

どうにもならない原始的な手法であるロングカウンターでの敗戦は許容できた。

 

だが、この論理的な敗北に対して、翌年マスカットは準備をしなければならないと決断し、デ・ゼルビがプレミアリーグで成果を示した手法を採用した。それが成功したかどうかはご覧の通りだが。

 

 

 

王者再臨 2024年7月20日・町田戦

 

引用元 

https://x.com/prompt_fmarinos/status/1814642355926147304

 

 

監督の解任により2年巻き戻した時計の針。

 

体現可能な喜田と渡辺が未だにチームの主軸として残っていたのは、この変化が激しい時代に僥倖だった。ボールをつなぐことが否定され始めた時代に再臨した圧倒的にボールを支配しつつリーグを制した22チャンピオン。

 

極めて高い流動性によって生み出される早いテンポでのボール流れはリーグを席巻している町田の守備を圧倒していく。

 

前半45分、ボール保持は67%、パスは292本、シュートは7本、PKを含む2得点と、シュート2本枠内0の町田をボールを持つフットボールで完全に制圧する事に成功した。

 

 

ところが後半、町田が最終ラインの枚数が数的同数になるリスクを冒してもマリノスの選手をタイトに捕まえ始めると試合は一変する。

 

前半67%だったボール保持は後半だけでみると51%まで下落、ボール保持というのは4,5%で大きな変化になるのだからこれはもう完全に別のゲームになった事を意味する。本当に同じチーム同士が対戦しているのかという程の変化だ。

 

パス数も4割減の149本まで下落、ボールを奪われ、パスを寸断され、完全に窒息状態に陥った。

 

そう、かつての広島戦のように。いや町田はスコア上、追い詰められた状態だった事もあり、より強く出てきており、マリノスはGKと最終ラインですらボールが持てず、それより苦しい状態になってしまった。

 

後半45分間でのシュートはコーナーキックから放ったロペスのヘッド一本。(ヤンのはクロスと判断)数字だけを見ると、まるで退場者でも出たのかと勘違いしてもおかしくない。

 

一方で、守備陣の奮闘は光った。町田のビッグチャンスは0。シューターに対して常に体を投げ出し、ブロッカーが居る状態であり、唯一の失点もあれが決まっては仕方ないというようなものであり、苦戦が続いたACLの経験が活きたと言えるのかもしれない。

 

 

総評をすると、このゲーム、マリノスはボールを持たないフットボールに苦戦したのではなく、ボールを奪われて大苦戦したのだ。

 

ここでマスカットを思い出す事は23シーズンに居なかったハッチンソンには難しいかもしれないし、1年やった結論として、そもそも上島とエドゥアルドに再びあれをやらせるのか、という疑問もある。

 

 

 

vsマンツーマン&ラッシュ(突進)的プレス

 

町田戦、この日のベンチにはこれまでキューエルがセレクトしてきた井上ではなく水沼が入っていた。この判断がコンディション的な話なのか、それとも相手が引いてスペースが無い状況を想定したのかは分からない。

 

ただ、この窒息状況を改善するには右サイドに井上が必要だった。

 

2023年3月3日広島戦、井上がマリノスで先発デビューを飾ったのが広島戦であり、正に井上がマリノスの劣勢を覆す活躍をした試合である。

 

https://www.youtube.com/watch?v=IjvfuYaAypc

 

 

試合開始から自陣に押し込まれ、ハイプレスを繰り返し受ける中、4分に自陣でのロストから失点。その後も自陣の押し込んでくる広島、スキッペのラグビー的なプレー位置を重視するフットボールに苦しむマリノス

 

 

その中で、マリノスは数的同数となっている最終ライン、特に右サイドに入った井上を活用したスペースアタックで息を吹き返していく。

 

永戸に対する理不尽なレッドカードが無ければ逆転勝ちが順当のゲームだ。

 

その後に若干、おかしな基準が残ったが、その場だけを言い逃れようと最もらしい理由をつけるのではなく、この判定は間違っていた、過度なVARの介入であったと認めるべきだった。

 

 

やられたら嫌な事をやり返せばいい。

 

原始的なフットボールは防御不能という意味で強い。

1対1でスペースがあるなら速い選手を走らせればいい。

 

常に発揮可能な能力を用いたシンプルアタックは防ぎようがない。

 

例えば後半、町田の守備にとって最も危険なシーンだったのは飯倉のパントキックに、谷が飛び出してヤンと交錯したシーンだろう。

 

別にノーファウルで良いと思うが、永戸基準ではボールに触ったかどうかでは関係ない。ヤンと谷の接触がノーファウルは適正か? 角田のように顎を割られる大怪我をしなくてよかった。

 

 

問題はチームとして統一された意思を持てるか、再現性を出すために、デザインとしてのロングボールが蹴れるか。

 

この点、マスカットのチームでは1列目が引いた裏にウイングがラインブレイクラン、ダイアゴナルランを仕掛けるシーンを繰り返し見る事が出来た。これが準備と成果である。

 

22マリノスの弱点は明白であり、それは先日の試合でも再現しており、現状は暫定ながらハッチンソンはマスカットと同じ課題に向き合う必要があるだろう。

 

彼の暫定がとれるのかどうかは、この仕事ぶりも大きく影響してくるのではないか。

 

 

 

 

戦力編成 マリノススカッドを見る

 

取り戻す22シーズン、シーズン当初とは根幹が異なる事になったので再度、現在の戦力編成を見直した。

 

黄色は他ポジションで白記載 又は 大学生

赤は現在 怪我等で欠場、今期ほぼ出てない選手

 

 

時計の針を巻き戻すにあたって思うのは選手まで大改造する前で不幸中の幸いである。

 

総じて見るに、針を巻き戻すのに十分な戦力は現時点で維持されており、ジャンのフィットが進むことによる選択肢の増加(アンカー再び!?)も期待される。

 

一方でまだ先にはACLE他カップ戦が残っており、連戦も想定すると不安を残す部分として、バックラインは怪我人の復帰が最大の補強になるのは間違いがないが、それにしても實藤を出してしまった上島のバックアップは不安が残る。

 

 

ここで今の資金力を加味してブラジルの逸材グスタボ・マルチンスは諦め、一押しの選手は今期のJ2山形でプレーするセンターバック、西村慧祐だ。

 

187㎝と国内ではサイズに恵まれ、縦パスを潰す守備に強く、特にロングボールを得意とする26歳。

右のエドゥアルドというとイメージがつきやすいかもしれない。

 

更に、グラウンダーの強いパス、止められないお前が悪いとメッセージが込められてそうな強いパスを内側に差すプレーも見られ、クォーターバックの資質を持つ。

 

ボールタッチ数はJ2最高の1試合平均80.7回を記録し、マリノスのスタイルに最もなじみやすいセンターバックと言える。

 

また、30m以上のロングパス総数はリーグ3位の283本でありながら、成功率は70.3%とキックの正確性は特筆されるべきものだ。

 

今期山形はリーグで大苦戦しているが、チームの1試合平均被ゴール期待値1.312に対して実失点は1.08と守備陣の孤軍奮闘ぶりが光る。その中心にいるのが西村である。

 

 

また連戦を控える中で復帰状況が見えてこないサイドバック、喜田と渡辺以外が22スタイルに合致するのか不安を残すボランチ陣にポリバレントな人材として熊本でプレーする竹本は最適だろう。

 

元々攻撃的中盤で昨季は左ウイングバック、今年は戦力編成に苦しむ熊本で何故かファーストトップまでこなしており、ボランチセカンドトップ、左サイドバックで対応できるかもしれない。

 

とにかくプレースタイルとして、大木スタイルに馴染んだ彼ならばマリノスの高い流動性を伴うパスワークに難なく対応できる事が強みとして考えられる。

 

 

またウイングの左右についても、22モデルからの再編が求められる。

 

22シーズンではエウベルがミドルゾーンからカットインを開始し、敵陣を斜めに進み右サイド攻撃で完結するスタイルがハマり、ファーストトップ以外に水沼、西村、エウベル、仲川がゴールを重ねた。

 

だが、今期はエウベルのドリブルがそれほど効果的でなくなっており、町田戦の前半でも見られたのは22シーズンとは逆となる、ヤンの起点、展開力を活かした敵陣での右から左への斜め移動であり、ボールキャリーよりもゴール前のクオリティを期待する水沼を置くなら左の方がいいかもしれない。

 

町田戦、左に入った加藤蓮が活躍したのも理由がある。

 

 

この点、後半から宮市とセットで使われても宮市は縦に突破するタイプなので、クロスが流れてくるシーン以外、シナジーという点では水沼に恩恵は余りない。宮市のスピードで突破した流れからのクロスに合わせるには相応のスピードも必要になる。

 

そもそも町田の様な対応を想定するなら宮市と井上をデザインにより、再現性をもって数的同数の空間へ走らせる方が効果的だ。悩ましいのは状況に応じて井上と水沼をベンチに置いておけない事か。

 

この点、言ってる事とやってる事がまったくチグハグな野々村チェアマンはご当地グルメ巡りなどしていないで、さっさとリーグ戦のベンチ入り人数を8人以上に変えるべく、反対している各地を説得して回るべきだろう。

 

マリノスにとって今一番重要なテーマと言える。

 

 

 

ここからは余談だ。

 

その余談だが、シーズン移行の建前に「暑くてフットボールをする季節じゃない」「パフォーマンスが落ちるのは間違いない」とまで言っておきながら、リーグ戦は30度以上の気温が残る18時キックオフ時間を是正しない。

 

 

www.soccerdigestweb.com

 

宿泊施設も交通機関も最強の国立で、気温が3度は下がる21時キックオフが出来なければ一体、日本の何処でやれるのか。1円にもならない雪かきの解決は考えるが、シーズン移行しても結局やる事になる真夏ゲームの問題は一切解決しようとしていない。

 

 

 

更に、次々と日本人が旅立って行く、好成績を上げれば上げる程に戦力を失っていく傾向があるJリーグで、サウジが本気になった中東とACLエリートで戦って勝てと号令は飛ばすが金銭面も含めて支援は全くしない。令和の牟田口廉也か。

 

 

 

 

これはホームグロウン制度を厳格に運用した上での外国籍枠の開放はシーズン移行などよりも遥かに、Jリーグにとって逃げられない目の前にある課題だろう。

 

例えば選手を売るという観点でも、ブラジルリーグをマネーボール的な視点で観察していると、若い選手が得点を少し重ね、半年程度の活躍だけであっという間に値札の値段が倍、倍々になっていく。歴史的なレジェンドを排出してきたブラジル人がブランドとして信用をされているからだ。

 

以前の繰り返しになるが、今ジュニオール・サントスの値札はJリーグで得点王になったロペスの倍だ。

 

つまり、選手を育てて高く売るにはJリーグもブラジル人選手ほか外国籍選手の比率を増やせばいいのでは?