スタートからの1000m通過タイムが1分ジャスト。
そこから更に400mのラップタイム は 12.9秒 - 13.1秒 と完全な中弛みのレースとなった第83回日本ダービー。
※競馬では 200m毎にラップタイムを考えるのが一般的で、当記事でもラップタイム=200m毎です。
スマートオーディンにとっては絶好の展開となったにも関わらず、
後ろから来たリオンディーズにまで交わされて6着となった事に釈然としない人も多いのではないだろうか。
この記事ではスロー専用とまで言われていたスマートオーディンが得意の状況で見せ場なく着外になった理由を説明する。
スマートオーディンがスローペースに強い理由
これまでのレース結果から、直線で良い脚を使う、瞬発力が凄い、など漠然と理解している人が多いかもしれない。
だが、スローペースというレースの特性、それに適したスマートオーディンの能力とは何なのだろうか。
スローペースのレースで鍵を握るのは多くの場合、残り600mから残り200mまでの間に必ず発生する、
レース中 最速ラップ(最高速)への過程で起きる加速力勝負
となる。
スマートオーディンがこれまで快勝した3重賞の残り600mのラップは以下になる。(単位は秒)
東スポ2歳S 11.5 - 10.9 - 11.3
毎日杯 11.3 - 10.6 - 11.4
京都新聞杯 11.8 - 10.8 - 11.9
スマートオーディンの何が驚異的な能力なのかと言うと…
レース中で最速の速度域に達している、他馬が限界を迎えている10秒台のラップにも関わらず、
その速度域の中で一気に先頭に立ってしまう、他とは一線を画する加速力と最高速 である。
スマートオーディンの弱点
2000m以上の距離にも関わらず、ハロン10秒台すら物ともしない加速力と最高速はディープインパクト級と言えるスマートオーディンではあるが、
3重賞で2着馬への着差はそれぞれ 1馬身、1馬身1/4 3/4馬身 と圧勝が無い。
それはつまり、一瞬で加速した後、他馬を置き去りにする最高速が持続しない事を意味する。
加速力とはつまり、急激なエネルギー消費であり、爆発的な加速力は急激な消耗とイコール。
あくまでもトレードオフな存在であり、高すぎる能力がもたらす弱点と言える。
スマートオーディンにとっての生命線
それは…
レースが加速するタイミングで一気に有利な状況 を作り、持続性が必要なラスト200mでは勝負しない事
日本ダービーは絶好のペースだった
冒頭で触れたように、スタートから1000mまでは1分ジャストと緩い入り。
その直後に、12.9 - 13.1 (秒) と中弛んだ。 (特に13.1秒は下り坂区間)
そして残り600m からのラップは 11.6 - 11.0 - 11.6 と、
レース中における最速ラップが最後の直線で記録される、
正にスマートオーディンの為のペースとすら言える絶好の展開だった。
能力がスポイルされた直線
絶好のペースにも関わらず、伸び切れないような印象の6着に終わった理由は何なのか。
前項にて、スマートオーディンの生命線はレースが加速するタイミングで一気に有利な状況を作れるかどうか
と述べさせて貰った。
では先日の日本ダービーで、レースが最加速し、最高速に達した直線入り口から残り300m付近にかけて、スマートオーディンの動きを見てみよう。
直線入り口、既にレースは加速し始めているが、ディーマジェスティとヴァンキッシュランがいることで、進路が全く無いのが解る。
加速力を発揮できる状態ではない。
そこから更に130m~140m進んだ地点。
未だに進路が確保できていないのが解る。
ココこそが運命の分かれ道であり、騎手が馬の特性を理解していなかった結果、ただ一週ついて回ってきただけに終わった理由。
レースが最加速し、最高速に達するタイミングに一気に勝負をかけるのが能力を最大限発揮する方法。
ダービーではココこそがその瞬間だった。
だが、有利な状況を作り出すどころか、何も出来ていないのは一目瞭然である。
この時点でスマートオーディンのダービーは終わったと言える。
やっと進路が確保出来たのは残り300m付近。
(残り400m通過から8秒後なので正確には残り240m前後と遅きに失するタイミング)
だが、ここからは最高速の持続性が求められる区間であり、最後までしぶとく伸びたマカヒキやリオンディーズとは違い、得意分野ではない。
スマートオーディンがなぜ得意のスローペース勝負で負けたのかをまとめると…
・ スマートオーディンの能力は加速力と最高速
・ 弱点は最高速の持続性
・ レースが最加速するタイミングで有利な状況を作るのが勝利条件
・ レースのペース、展開は絶好だった
・ 日本ダービーではレースが最高速に達した時、進路がなく何も出来なかった
競走馬の能力とは個性であり、その個性が衝突する場がレースとなる。
日本ダービーのコース形態、近年の傾向から、スマートオーディンの個性は極めてマッチングするかと思われたが、記録競技ではなく、相対競技である競馬では能力を発揮する事こそ難しい。
厳しい見方をすれば、鞍上から個性の理解不足を感じた。
だが今後、こういうペースのレースが多い日本で競馬をすれば、幾らでもビッグタイトルを獲得するチャンスはあるだろう。
故障さえなければ、という言葉は重い。
その点、今年のダービーは有力馬が集い好レースとなったが、これは無事ダービーへ出走馬を送り出した関係者皆さんによる尽力の賜物である。
18着馬を除き、全ての出走馬とその関係者に感謝したい。
<旧ブログ スポナビ閉鎖に伴う追記 2017年10月25日>
コメントもYahooのスポナビブログから引っ張ってきたので、わかるが、当時は余り理解されなかった記事。
御存知の通り、ダービーの前3頭は、最強世代と呼ぶには程遠い性能であるのが判明している事もあり、スマートオーディンがベストな距離ではないにしても、もっと際どい勝負に持ち込めたという意見は、今なら多少は理解を頂けるだろう。
だって、今、G1で戸崎買うか?
なんで買えないかって、記事で書いたように、こういう事なんだけど、皆解ってなかっただろ。