今回は前回に引き続き、明治安田生命J1リーグ2023シーズン32節終了時点におけるマリノス所属選手の個人スタッツ・データを批評する。
マリノス選手個人スタッツ批評2023シーズン32節終了時点 ウイング&セカンドトップ編 - 横浜F・マリノス ファン
対象の選手はリーグ戦で一定以上の出場時間があるボランチ、そして3番手ウイングとなる。
確認された良くない点は良くないとはっきり書いているので、そういう話は見たくないと言う方は見ない方がいい。
データ参照元はフットボールラボ、Jリーグ公式サイト、海外のデータサイトsofascore
ゴール前の質があれば…だけでは務まらないポジション、より攻守に渡り満遍なくタスクが求められるボランチ。
項目が多いが故に、得手不得手を盛り込んだスタイル、更にはコンプリートする選手、様々なタイプの選手がいるポジションであり、大きく分けて攻撃面、守備面、そして活動量という3つのテーマで考えた。
総合力ナンバーワン 中心選手
マリノスの心臓部に君臨したと言えるのが渡辺皓太だろう。
引用元 https://x.com/prompt_fmarinos/status/1701883559483699296
32試合出場、31先発、ロペスに次ぐ2608分の出場時間
ゴール期待値1.390 2ゴール シュート成功率9%
出場時間こそが価値のバロメーターとするのであれば、マスカットにとってロペスと同等に考える”エースの一人”であったと言える。
またボールへの関与が伺える数字で高い量と質を記録
1試合平均
ボールタッチ 63.4回
パス成功率 92% 自陣95%-敵陣89%
ロングボール 1.3回(62%)
チップパス 1.4回(59%)
クロス 0.1回(40%)
キーパス0.5回
ドリブル成功 0.4回(64%)
ポゼッションロスト 6.8回
アシストが無いのは今後の課題だが、キーパス0.5はボランチ陣最多を記録している。
インターセプト 1.0回
タックル成功 1.3回
ボール奪い返し 5.4回
彼が見せる高い切り替えの意識と、小柄ながら鋭い出足は守備の要所であり、見せ場となっており、スタンドを沸かせるプレーがスタッツにも反映していると言える。
デュエル勝率では50%を若干割り込み苦戦傾向が見えるが、思ったより対空デュエルは悪くない。
1試合平均 デュエル勝利数(勝率)
総合 2.8(49%) 対空0.3(47%)
FC東京戦で90分に決めたミドルシュートは圧巻の一撃だった。
安定感の2番手
喜田 拓也
28試合出場 23先発 2021分出場
引用元 https://x.com/prompt_fmarinos/status/1712434762236014830
今期は久しぶりにゴールを記録したが、シュート成功率は6%、もう一点くらい決めてもらいたい所。G大阪戦の振り向き様放ったポスト直撃が決まっていれば…
強みが見えるのはやはり守備面と活動量。
デュエル勝利数が渡辺よりも1試合平均で+0.8 総合3.6回(勝率54%)
一方、対空が0.2回(勝率29%)と小柄である事の苦しさも見える。
ボール奪い返しでも役割の差があるのかもしれないが、4.2と渡辺よりも低く、インターセプト0.8回、タックル成功1.4回はほぼ同数と言えるが、守備力こそ期待されている立場としては物足りない。
攻撃面を見ると渡辺よりも全体的に若干低く
パス成功率 89% 自陣91%-敵陣87%
また、ロングボール 0.6回 チップパス 0.3回 と”飛ばすパス”を選択しない=出来ない能力が伺える。
パスディフェンスを強いてくる相手には次の選択が読みやすいと言え、せっかくオープンになった後に見せる自信のなさそうなプレーも数値として表れていると言える。
ポゼッションロストもボランチ陣では最多の8となっており、敵にとって狙い目となっていた可能性もある。
キーパスも0.1とボランチ陣の中では最も低く、見事なダイレクトパスを見せた時も1度はあったがラスト30mでは輝かない結果となった。
キーパス
渡辺 0.5
喜田 0.1
山根 0.3
ジョエル 0.4
今期のスタイルに合致した可能性をみせた2人
山根、そして既にチームを去ったがジョエルについても触れていきたい。
ビルドアップの形式を大きく変えた今季、風間スタイル的に、という意味でボランチにはより高いスキルが求められたと言える。その中で世代別代表で中心を担う2人はボールを失わない強みを発揮した。
ポゼッション(ボール)ロスト
渡辺 6.8
喜田 8.0
山根 4.8 excellent‼
ジョエル 5.0
更に山根はジョエルの移籍、DFラインの緊急事態によって秋以降出場時間を大幅に増やしている。
序盤はチーム事情からリーグではサイドバックで運用されることが多かったが、特に鳥栖戦以降は5試合連続スタメンと中央のポジションを掴んだ。
19試合出場 9先発 962分出場
先発9の内 RSB4試合 CH5試合
引用元 https://x.com/prompt_fmarinos/status/1712117830345490665
総合的に見てみると3番手という評価が現時点では妥当と言えるが、彼のパラメーターは攻守、活動量ともにコンプリートされた方向性であり、来期は1番手になっても驚きはない。
既に攻撃面では高い才能を見せており、今後は質の向上、更には全体的な活動量、特に切り替えやボール奪い返しの点で渡辺から学ぶ事は大きいだろう。
ボールリカバリド
渡辺 5.4
喜田 4.2
山根 2.3
パス成功率は89%だが自陣では94%に対し、敵陣で83%と一撃で打ち抜くパスを試みるチャレンジをする姿勢が反映していると言える。
プレー機会では4番手となっているのが夏に移籍したジョエルだ。
中々安定した出場時間を得られないでいたが、鳥栖3-1、京都4-1、湘南4-1の先発3試合で見せたパフォーマンスは今季ボランチ陣でベストと言える内容であり、また最も少ない623分出場で2ゴールを記録している。シュート成功率は18%
2-2の名古屋戦でも良いプレーをしており、更には今季ベストと言えるのが0-1の川崎戦であった。58分での交代はマスカットの失策と考えている。
問題があるとすると活動量の点であり、ボランチ陣で唯一1試合平均のデュエル勝利数が2に達しておらず、またボールタッチ数も40に届いていない。もちろん短い時間の途中出場が多い選手は機会がこないまま試合が終わるという要素はある。
だが、移籍先のベルギーでも機械採点的な評価は低く、中身として1試合中のボールタッチ数、デュエル勝利数やタックル数はマリノス時代よりも更に低下しており、U22の中では別格かもしれないが、CHとしてキャリアを進める上で、彼の改善点はこの辺にあるのかもしれない。
Jリーグの最高峰
ここで、目線を変えてJ1リーグ最高の選手を紹介したい
サガン鳥栖 河原 創
32試合 32先発 全試合フル出場
1ゴール 3アシスト ビッグチャンスクリエイト6
1試合平均
ボールタッチ 76.6回 (マリノス最多は渡辺 63.4回)
パス成功率 85% 自陣91%-敵陣74%
ロングボール成功数 2.1回
チップパス成功数 2.6回
クロス成功数 0.8回(23%) 参考 水沼 0.6(24%)
キーパス 1.1回
ドリブル成功 0.5回(71%)
ボールロスト 13.6
深く差し込むパスを打ち込む分、全体的なパス成功率は下がっており、アシスト数やビッグチャンスクリエイトはセットプレーを蹴る分の補正はある。ボールロストが多いのは失っていい場所で、チャレンジを繰り返す結果と言える。
クロス成功は上位のアタッカークラスであり、機を見て見せる効果的なドリブルは成功率70%オーバー、更にロングボール、チップパスと豊富な選択肢を持つ最高クラスのクォーターバック性能を誇る。
そして活動量、ディフェンス面でも高い数値を記録
デュエル勝利数 3.0回(勝率49%)
インターセプト 1.7回 (渡辺 1.0回)
タックル 1.6回 (喜田 1.4回)
ボールリカバリド(奪い返し) 6.5回 (渡辺5.4)
sofascoreはJ1リーグ公式と計測方法が異なるがJ1公式でも以下になっている
1試合平均プレー数
河原 70.1 渡辺 60.1
タックル成功数
河原 1.9 渡辺 1.5
河原 0.3 渡辺 0.1
この数値のベースとなっているのが1試合平均の走行距離が12㎞を越えるのは当たり前、時に13㎞オーバーも記録する圧倒的活動量。
90分×全試合に渡る貢献が伺える数値であり、今季、鳥栖は勝ち点こそ既に残留を決めているが、非常に苦しいゲームが多く、河原を獲得できていなかったら一体どうなっていただろうか。
J1ナンバーワンの狩れるボランチ
アルビレックス新潟 高 宇洋
29試合出場 26先発 2375分出場 1ゴール
外国籍選手の獲得に失敗し、中心選手が引き抜かれていく中でも安定した戦いぶりを見せた新潟の中で異質の強さを見せたのが高だった。
1試合平均のボールタッチ数は河原とほぼ同じ76回
パス成功率 87% 自陣 90-敵陣 85%
ロングボール 1.8
チップパス 1.4
またアシストは記録していないがキーパスは0.6 マリノス最多は渡辺 0.5
ほかドリブル成功数(成功率)が0.7(57%)と下手したらその辺の攻撃的選手よりも高く、ボールを運べる選手と言える。
しかし何といっても強みが見えるのは守備面だろう。
1試合平均のデュエル勝利数 4.7 勝率 55%
インターセプト数 1.9
タックル数 2.1
ボールリカバリド 6.0
別データのJ1リーグ公式によるとタックル成功率は77.9%
(参考 渡辺63.5% 喜田53.3% 福岡の井手口58.5% 名古屋の稲垣 68.9%)
成功率は神戸の山口が81.1%(1.2)を記録しているが、回数は高(2.6)が圧倒しており、インターセプト数1位で待ち受け方の山口、ボールハンターの高が、守備力の2強と言える。
この夏、ジョエルの移籍に伴った対応は行わず、山根、更に榊原の成長を待ったマリノスであったが、国内で上位互換は可能であり、更に言えば今回紹介した2人は他の上位チームにとっても格好のターゲットと言え、若い世代が直ぐに出ていきたがる昨今の風潮を考えると山根の動向次第ではマリノスも注視する必要があるのかもしれない。
3番手ウイング
井上健太
13試合 2先発 366分出場 1アシスト
3節広島戦で先発に起用されるなど、シーズン前半では1番手の可能性があったかもしれないが右サイドがヤンと水沼、左サイドがエウベルのサブは復帰の宮市となるとカップ戦が主戦場となっていった。
左サイドで2番手を争った宮市と比較すると、決定機となるようなシーンが少ない印象があるのではないだろうか。それはデータでも表れている。
宮市 482分 2ゴール ビッグチャンスミス 5(もっと決めて…
井上 366分 0ゴール ビッグチャンスミス 0
全体的なパス成功率は宮市よりも高いが、クロス成功率は低いなど、ゴール前のクオリティが求められるポジションとして物足りなさが見受けられる。
パス成功率 80% 宮市 72%
クロス成功率 16% 宮市 27%
シュートに接続したキーパスは0.6と同じであるが、役割は2番手、つまり交代要員でもあり、よりFW的に自らがゴール前に入っていく宮市の方が好まれたという部分があるかもしれない。
前回、リフレシュ効果としてみた場合に宮市のデュエル勝率は55%に達し、強度の補強とカウンター機会に絡むという点で任務を果たしているとしたが、井上はその両方で宮市よりも低い。
またウイングとしてみた場合に、限られた時間とはいえ1試合辺りのドリブル成功数0.1、成功率17% と正直上手くない方の部類であり、自分がシュートを打つ側に回るのも含めて、もっと走力を活かすスタイルを見出す必要があるのではないだろうか。
参考までに、3試合先発したACLにおいても1試合平均のドリブル成功数0.3 成功率25%と残念な数値だった。
マリノスのアタッカーである以上、ゴール前のクオリティが求められているのに対して、ドリブル、クロス、シュート、現状では強みが見いだせない以上、左右の3番手であったのは妥当と言える。
帰還はあるのか?
最近は帰ってこない傾向があるアカデミー育ちのレンタル選手達。
中でも最も動向が気になるのはJ1新潟でプレーする松田詠太郎だろう。
20試合 8先発 830分出場 1アシスト
昨シーズンはJ2優勝チームで1982分出場し、飛躍が期待された今季であったが、それほど潤沢ではない戦力の中、なぜか彼のポジションだけは熾烈な競争が生まれ大きく出場時間を減らした。
4年目のJ1で昨季位の出場時間ともなれば、先輩の左ウイングと同じ成長曲線を描いていたが惜しまれる。終盤戦に向けて先発出場が増えていたがマリノス戦には出れない。
裏抜け、ドリブル、クロス、10月の鳥栖戦、直近のFC東京戦、ボールが入ればよい仕事をしていた。
パス成功率 81%
クロス成功数 0.4(23%)
キーパス 1.1 Good‼
ドリブル成功 1.0(65%) Good‼ 参考 22シーズンエウベル 1.2(60%)
デュエル勝率 51%
目に見える問題として、1試合平均のタックル数が0.2と太田や三戸と比べても極端に少ない
マリノスのウイングの中では特に少ない水沼が0.3なので、それよりも少ない
エウベルやヤンが0.9、0.8であり、宮市でも0.5、井上は元WBらしく0.8と高め。
ドリブルはJ1の中でも上位に入るクオリティを見せており、攻撃面は全体的に高い水準に迫っている一方で、取り組むべき問題は明らかと言える。
以上、今回はボランチと3番手ウイングについて、データ面から評価してみた。
エウベルとヤンは正にJ1リーグのトップと言える選手であるが、ボランチに関してはより上位の選手が見つかったので、そちらも参考までに紹介した。