これさえ取れば…
2020年の横浜F・マリノスにとって、異常な日程に巻き込まれ、まともに競争力を発揮する事が、物理的に困難な状況に追い込まれたリーグ戦は日程を消化する事のみがプライオリティであり、その最中に組み込まれているルヴァンカップも、それに準ずるコンペティションだった。
一方で、開催日程が揺れに揺れたACL2020について、今の世界情勢を考慮してもベターな方式であり、もっと言えば、東大会に関しては全チームがほぼ同一条件(中国チームはグループリーグ未消化だった為、2試合多い)で戦う構図となり、リーグ戦と同時並行で開催される通常スケジュールよりも、勝ちやすくなったと思えた。
アジアチャンピオンになれば、勝利ボーナスやラウンド進出ボーナスを含めれば賞金6億円が得られ、今シーズン、紆余曲折あったが、全てはこの為にあったのだ、と思えるような大団円を迎える事が出来る算段も立った。
だが、現実としてはリーグ戦同様に、チームは低調なパフォーマンスのまま、ラウンド16で敗退となり、特に、過密日程がエクスキューズに使えない惨憺たる試合内容については、最早、来シーズンへの不安まで感じる物だった。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
編成の失敗
水原戦のスターティングメンバー by Google
この一戦に、2020編成の泣き所が詰まっていた気がする。
2020シーズンに向けて、沢山の選手を獲得したが、結局の所、最終的な並びとして、昨年の優勝メンバーからマテウス&遠藤と、パギが居なくなった、パワーダウンを感じさせるラインナップでラストマッチを迎えた。
今シーズンの泣き所となった左ウイングには、リーグ戦で1000分の時間を与えた前田ではなく高野が選ばれた。あれだけの機会で0アシストの選手ではアタッキングフットボールは成立しないと遅ればせながら判断したのか、出れば高確率でクロスからアシストを記録する高野が選ばれた。
ただ、ポジティブな面もあったが、やはり急造ウイング、例えば仲川が得意とする敵ラインとの駆け引きで裏を取るような動きが身についておらず、タッチラインの選手が前半だけで4回オフサイドになるなど、裏への動きを封じられると、下がって受ける足元に入るパスを徹底的に狙われ、左サイドはボールロスト地点になった。
ティーラトンから高野の所はロストの山だな、ショートカウンター全振りみたいな相手に修正しないと一撃が怖い。
— Speir_s (@Speir_s) 2020年12月7日
また、高野はドリブルの仕掛けも武器であるが、この試合でマリノスに同点ゴールを叩き込んだ対面の選手が強力で、質的優位を感じるシーンは一度も無かった。扇原、畠中、ティーラトンが揃うと、敵陣に入る縦パスは左サイドが多くなる傾向がある中で、出口になるポジションが急造選手で、その急造感が、ジリジリとあぶり出される展開は段々と劣勢になるのも当然であった。
今季のウイング事情としては、先ずマテウスは獲得できず、遠藤もシーズン途中で送り出してしまい、新加入の杉本は1試合も使われない、途中加入の選手達も、ジュニオールサントスは活躍したが、それは同時にエリキをウイングで疲弊させるだけとなり、前田は1000分使って諦め、松田は、まぁ日程消化ミッション用なので任務達成と、迷走感だけが残る物であった。
そして、ラストマッチとなったこの試合、たどり着いた答えが、サイドバックの人員を削っての高野起用では、マテウス&遠藤というスピアヘッドを90分敵陣に突きつけていた昨季からみると、大きなマイナスでしかないのは説明不要だろう。
ここで編成の責任だけなのかと言えば、他にも前、山本がそうであるが、J2から獲得した選手を1試合も使わないでレンタルで出す事になった結果、直後にセンターバックが足りませんなど、ポステコグルー監督の選手運用にも大いに疑問が残るシーズンでもあった。
特に、新獲得選手に対する、もはや冷遇と言える物は、監督は望まない選手だったのか、編成との関係に溝でもあるのか、と大いに不安を残した。ルヴァンや天皇杯で慣らす時間が、というが、前田や松田を即起用している時点で、その憶測は成り立つのだろうか。
まぁ冷たい見方をすれば、当初に想定された同時並行となる9月以降の日程で、重要度が低い天皇杯序盤などを想定した、最初から重要な試合では使わないと決めていた、人数合わせ程度の最低限な人員だったとも言える。
だが、今、監督の信頼を得ている選手が並んだラストマッチ、それは明らかに昨年よりも弱いチームだった。
川崎フロンターレが、三笘、旗手、山根といった3選手で、小林、大島や家長を復活させたのと比べると、マリノスが2020に向けて獲得した3人の選手は一試合も出場する事なく、更に仙頭も含めれば、全員が今J2でプレーしている。
ウイングレス(3バック)とはなんだったのか
仲川が怪我を繰り返す中で、ウイング適正のある選手が居ないポステコグルー監督はウイングを用いない、2人のセカンドトップと、両ウイングバックを用いた手法を使うようになった。
これは初登場の名古屋戦は未整備感が溢れるものだったが、次のセレッソ戦は上記記事にあるように、スコアは負けたが、敵陣プレスの改善を含めてウイングレス構造でアタッキングフットボールの復活を感じさせるゲームだった。
この予感はその後、
8試合で 5勝1敗2分 20得点 8失点
と昨シーズンの10勝1分ほどではないが(神戸にシュート3本で3点とられたりとか)低調な今シーズン全体で見れば、かなりポジティブな数字を残した。
特に、酷いことになっていた1試合平均失点は優勝した19シーズンと遜色が無い物で、1点が物を言うノックアウトラウンドのカップ戦を見据えれば、残り8試合、実践で練度を高める時間も十分に残されており、大いに期待を出来る変革だった。
がっ!
何故か突然止めた。監督はテンプレート回答を用い、本音や意図を語ることがないので、何で止めたのかは一切わからない。
その結果、残りのリーグ戦は確かに対戦相手にリーグ上位が多いという余地はあるが、
8試合で 3勝5敗 17得点 17失点
と、3バック以前に巻き戻り、そして明らかに失点数が激増した。
特に、4バックに戻した試合以降、ACLを含めた13試合において失点をしなかった試合は2試合のみで、その2試合も…
FC東京戦は途中で相手選手が暴力行為で退場したにも関わらず、シュート数 18 - 12(枠内 5 - 4)とかなり敵の攻撃を受けており、ゴール期待値も1.47 - 1.214 と論理的には敗北している。
1-0で勝利した上海戦についても、オビがPKをストップしたのが重要であるし、優位なゲームだったという感想を持っている人はいないだろう。
確かに鳥栖戦でもそうだし、特に最後のウイングレス構造での試合となったガンバ戦では、2人のセンターバックとGKに対して圧が低くなりがちで、そこからロングボールを蹴り込まれ続けると、セカンドボールも拾えずに、更に敵が人数をかけた場合におけるサイドの守り方も未整備で、押し込まれ続けるという苦しいゲームもあった。
まぁ、マリノスの選手クオリティで、耐える守備をすれば、1失点で耐えられたけどな。
でもさ、それこそ大阪アウェー連戦を始めとした、超過密日程が問題で、解決可能だったんじゃないのか、と。
だが、マテウス&遠藤の補填をする事は物理的に解決できないと、ACL2020が再開する前に分かっていながらもウイングありきの構造に拘った。やれるかどうか、ではなく、やりたいことをやる監督の悪癖が、弱体化したままのチームでラストマッチを戦う事になった要因ではないか。
基準がよくわからない
昨シーズンはシュート数で明らかに敵を上回り、その結果、「決めるべきチャンスを決めていれば」という敗北が多かった。
だが今季は、明らかにボコボコにされる試合が多く、ゴール前のクオリティ以前に「このゲームは監督が望まれるアタッキングフットボールに程遠くないですか、え?何もしないのですか」という状況が多い。
自陣でしっかり守る相手にもボコボコ
敵陣プレスにくる相手にもボコボコ
対戦した感覚としては、今季、川崎よりも鹿島の方が強かった。
そして水原相手にも殴り負ける
前半に追加点が奪えなかった事ばかり注目をされるが、前半から確認されていた現象として、敵陣でボールが奪えずに、自陣からビルドアップを開始する機会が増えるも、5人で中を固めて外に追い込み、外に出たパスを狙うという水原の狙い通りに、自陣又は敵陣入り口でのロストを繰り返していた。
特に、中に立っていた選手がビルドアップで、外へと受けに出たタイミングでボールをロストしてしまい、そこからディフェンスラインの前がワイドオープン(拡大して開いている=ガバガバ)な状況で受けるショートカウンター、これ2018年のルヴァンカップ決勝戦と同じで、一番危険な形から2失点。
その経緯を、前半が終わり1-0でリードしていたのに、危険な構造をそのままにしていたから、だと思うのだが、監督的には決定機を決めてればよかった、また決定機を作れる、という感じなのか、「このまま続けたら無理じゃないですかね」という時も、何かすることは、これまでの試合、シーズン中同様に、先ず無かった。
水原戦、前半に決定機を作ったと言っても、敵コーナーキックのクリアがこぼれたのをエリキが独走した、個人力のロングカウンターと、オビが蹴ったボールがたまたま裏に抜けただけの偶発的なチャンスしか作れてなかった。
こういう試合をすると、リードを守るような試合展開を覚えるべきだ、という論調も増えるだろう。
だが、別に1点のリードを守る思想のような基礎的な物を変更せずとも『このまま打ち合いをして、より多く決めて勝てばいい』というのは別にスタイルとして有りだと思うが、目の前の試合、現実、そのインとアウトを見比べ、収支としてマイナスになるのではないか、という基準が存在していないのは問題だ。
今季は逆転負けの試合数が注目をされるが、その要因として、マリノスは前線のクオリティが高いので先に迎えた、少ないチャンスを物に出来るが、インアウトは論理的にマイナスで、それが90分を通せば具現化したに過ぎない事が、データからも確認出来る。
※右マリノスの数字
札幌 スコア 3-1 シュート数 15-11(枠内 7-4)
名古屋 スコア 2-1 シュート数 9-8(枠内 4-3)
川崎 スコア 3-1 シュート数 14-11(枠内 3-3)
C大阪 スコア 4-1 シュート数 18-13(枠内 7-4)
鹿島 スコア 3-1 シュート数 26-13(枠内 7-5)
そもそもマリノスは論理的に負けてる、これは来シーズンになればいつの間にか直っている問題ではない。
ハイプレスと回避の時代に
時代はハイ(敵陣)プレス
以下はフットボールラボにおける、敵陣でボールホルダーにアタックするなどの条件をベースに算出される、ハイプレス指数(回数ではなく偏差値)
データ by フットボールラボ 横軸が指数で、縦軸が成功率
2019年
2020年
2019年は50を超えるチームは、マリノスを含めて少なかったが(マリノスはボール保持時間も長く回数が少ないので、算出されにくいハイプレスだった)
2020年は明らかに全体が右にシフトしているのが確認されている。
C大阪はほぼ不動なので、昇格した2チームはC大阪型になり、殆ど全てのチームが同じく不変の大分よりも右側に移動する、前進傾向が加速したシーズンだった。
これは間違いなくマリノスがJリーグに与えた衝撃の影響であるだろうし、チャンピオンズリーグを始めとした世界基準に、他のチームが遅ればせながら追いつこうとしている、とも言える。その結果、今季は簡単に大差がついてしまうような試合も増えた。
マリノスが以前そうであり、そして今季もそうであるように、オープンなシュートシーンが発生しやすく、シューターへのプレッシャーが低く、難易度が下がり、決まりやすい。
同時に、マリノスというよりも資金的に小さい大分の成功を受けて、世界的な潮流であるゴールキーパーを含んだビルドアップによる敵陣プレスの回避が、これに拍車をかけているのでないか。
また、直ぐに、頑張りに要因を求める傾向があるが、マリノスの選手はこの超過密日程でも、最も走っているし、そもそも個々の走力で解決しようという方法論に限界が見えたことに気が付かなければ、来シーズンに暗い影を落とす可能性がある。
マリノスのチーム総走行距離が116kmを下回った試合は 33試合中僅か4試合
セレッソ大阪戦は128.74kmを記録したが、論理的にもスコア的に1-4で負けた。マリノスが記録した得点はゲームが終わった91分だった。
5人交代制と、給水タイム採用という4クォーター制度によるサッカーのアメリカンスポーツ化をJリーグが来季も続けるのならば、この新競技にマリノスは対応しないと不利になる一方だ。
フットボールラボの指数(偏差値)で
マリノスの最終ライン高さ平均位置、は昨年よりも 4上昇
76 → 80
マリノスのハイプレス頻度は 12上昇
46 → 58
その結果、コンパクトネス(ボールホルダーにアタックしていない時の守備陣形)が
13マイナス
58 → 45
・ 前線の選手は昨年よりもボールホルダーにアタックし
・ ディフェンスラインもそれに呼応して高くなり
いざ攻撃を受ける局面では、守備陣形がスカスカになっている
※ 更にマリノスの場合はラインまで突出して高い
高い位置でボールを奪いたい、としても、GKがボールを持つことすら拒否する、フルコートオールプレスのような狂信的で、ヒステリックなプレスではなく、走力に依存しない論理的解決が必要ではないだろうか。
選手の質があるガンバや鹿島はロングボールでシンプルかつ安全に回避してくるだろうし、今年、交わす練習をしたチームが、もっと上手くなっているだろう。
選手クオリティの向上
ライバルの不在。
左ウイングは既に動きがあったようだが、ジュニオールサントスを野に放つのか、という疑問がある。
悪くない手応えがあったウイングレス構造を見限り、高野をコンバートしてまで、明らかに上手くいっていないウイングに拘ったポステコグルー監督。 となれば、仲川、新外国籍選手、そしてジュニオールサントス、それ位のクオリティが無いと、監督が望むアタッキングフットボールは成立しないのではないか。
出し惜しみをするのであれば、監督に変更を飲ませる必要がある。
また、ポステコグルー監督で行くことは決まっているのだから、マンチェスター・シティがグアルディオラを全面的にサポートしているように、後ろの人員にも十分な投資が必要になるだろう。
だって、もう皆分かった事として、監督に変化を求めるのは無理であり、つまり解決方法は選手のクオリティを上げるしか無いのだから。
問 わ れ る 編 成 力 !!!
「チ ャ ン ピ オ ン に な り た い の か」
そこで、もうJ2から獲得するのはリスクが高いと言える。監督が使わないのだから、例えば前田のようなアンダー代表クラスの選手じゃないと、戦力アップにならない。正にガチャ(運頼み)になってしまう。
J1リーグで十分な実績(プレータイム)と、不利な配置でもビルドアップでエラーしないスキルが求められる。
先ずキニナルのが、今季は敵の前でボールを触ろうとして入れ替わられる事が頻繁に見られた畠中には、彼と並ぶ資質を持つ、蹴れるセンターバックを用意して、絶対的な位置ではなく、駒の一人化する必要があるだろう。
例えばU-22代表であり、アヤックス化が進む鳥栖で才能が活きてきた原輝綺とか。
また、水原戦で喜田は先制点につながる見事な縦パスを通したが、危機管理に主軸を置く2.5列目という点で、和田、渡辺、扇原では完全に代用にならないのが分かった。アンカーも務まる、更に喜田と競うクラスの選手を狙いたい。
自陣ビルドアップ特化チーム、大分の長谷川雄志(大卒2年目でJ1リーグ3300分プレー)とか。
うらやましいですよね、シティは昨シーズンのセンターバック問題をルベンディアスとアケ、即座にお買い上げで解決しました、みたいな。その結果、ラポルテの出場機会が激減中とか。
絶対的なパフォーマンスをしてるから、アンタッチャブルな選手になるので、パフォーマンスが落ちているのにチーム事情で代わりが用意できないので、アンタッチャブルというのは、これは歪みが出てくる。
まぁハイプレス問題は5…49失点くらいに頑張ったとして、自陣ロストを減らし攻撃機会を増やして、破壊的なウイングがボールを運ぶ機会が増えれば、マルコスがビルドアップに追われて接触で疲弊し、雑な捨てパス蹴る機会も減り、エリキがシュートを25%の確率で沈めて、シーズン90得点とればどうにか…
なるんじゃないでしょうかねぇ。