いずれも論理的な勝利を目指すかという点においてはパワーバランスとして、マリノスよりも下の対戦相手であり、実際にゴール前のディティールが勝敗を決する結果となった。
特に、スペースの無い攻撃と被ロングカウンター対応という課題に晒されるという意味で、先制されたら面倒な相手に対して3試合連続で先制点を奪われ、よりゲームを難しくしてしまい逃げ切られた。
特に鳥栖戦はスコア以上に危険なシーンが多く、0-1で終わったのは幸運だった。
加藤聖のシュートシーンや、エウベルのポストヒットなどあったが、鳥栖はGKと1対1が2回、マルセロヒアンの至近ポストヒット、富樫ケイマンはエリア内においてフリーでヘッドとシュートと、海外データサイトではビッグチャンス数は0-7と一方的だった。
ボールが持てないと目覚める猛獣
鳥栖の傾向は明らかだ。
3失点以上して惨敗した浦和、広島、町田、柏戦は顕著で相手よりもボール保持率が高く、一方で今シーズン勝利した札幌、鹿島、川崎、磐田、京都は相手がしっかりボールを握ってくれた試合だ。
しかも、その中身がすさまじい。
5勝で19得点、札幌4-0、鹿島4-2、川崎5-3、磐田3-0、京都3-0、何この爆発力…優勝するの?
その火力はマリノス戦でも十二分に発揮され、決勝点のシーンで輝いたマルセロヒアンと横山歩夢のコンビはロングカウンターでこそ真の火力を発揮する。
特に前半33分のシーンは横山歩夢の真骨頂。J1リーグにおけるトップスピード歴代ナンバー1を更新した最も速いドリブラーはパスをするよりも確実に状況を一変させる。
そのスピードは最早、敵陣に居たボールホルダーが自陣にテレポーテーションする感覚に近い。
松原、喜田を置き去りにするだけでなく、一瞬でDFラインの前に現れ3対2の数的有利を形成した圧倒的なスピード、なぜ大岩はオリンピックに連れていかなかったのか理解に苦しむ。
マルセロヒアンは縦パスを収める能力は十分だが、決定機のミス、シュート成功率に課題がある。マリノスからすると課題があって助かった。
ハイプレス回避とハイプレスの攻防
この点に関してはマリノスがかなり有利に、つまり収支としてプラスだったのは間違いない。その結果としてボールを取り上げたことで、鳥栖の力を引き出してしまった訳だが。
ビルド時は渡辺が機を見て下りる動きを繰り返し鳥栖の混乱を誘い、オープンになった渡辺や、その恩恵を受けたエドゥアルドからエウベルが裏抜けを狙うシーンが何度もあった。
エウベル・ラインブレイクラン
0分50秒、9分19秒、18分6秒
またロペスが敵CBに対する優位性がそれなりに有り、プラスの逃げ先として縦パスを収めるシーンもあった。そして得意の右サイド攻撃もヤンに早めに持たせ、ハーフスペースに飛び出していく攻撃も機能していた。
ロペスへ縦パス
0分13秒、16分30秒、24分50秒、48分30秒
ヤンからハーフスペース攻略
28分6秒、34分47秒、52分10秒
しかし、クロス、ドリブル、カットインシュートも含めてゴール前でクオリティが出ない。それだけでなく通ればビッグチャンスというパスが通らなかったのも、ビッグチャンスが0だった理由でもある。
そしてハイプレスでは特に左に誘導し、エウベルがCBに出た後でバックラインがスライドし加藤聖を押し出してSBを捕まえる部分の連動は良く、敵にハーフラインを越えられないという点で成功率は高かった。
だからこそ鳥栖がハナから簡単にボールを捨てる訳ではないのにボール保持率が64%-36%と偏る結果になった。一方で敵の前線には格好の舞台が整ったと言える。
もっとも鳥栖が早いタイミングでGKから左サイドの富樫にロングボールを蹴ってくるという選択を余りしなかったのも幸いだった。渡辺も前に出ておりSBか1対2の状況に陥りやすい。
実際に、8分58秒、17分50秒、29分30秒は左サイドにロングボールを蹴られた後に、鳥栖ボールになりゴール前で危険なシーンが発生している。
ハイプレスの破綻
残念ながら、失点シーンは正にその前半から上手く行っていた左に誘導してハメる展開からだった。
加藤聖と敵SBの距離が時にはどうしても遠いので、敵SBはある程度余裕をもってロングボールを蹴れるシーンもある。
しかし失点シーンはそもそもマルセロヒアンと競った上島が目測を誤ってしまい、次の競り合い地点で天野もよくプレスバックしていたがこぼれ球が敵の前に落ちて、そこに戻ったエドゥアルドもスライディングでボールに触ったが、それも敵の足元に収まり、スルーパスがスライドの果てに左サイドまできた松原の股を抜かれた時点でもうディフェンダーが残っている訳がなかった。
最後のギャンブルに中で戻る味方を期待して、潰しに行く判断もあったかもしれない。
この様に失点シーンは不運も重なっているのだが、一方で許容できない部分も確認出来た。
とにかくロペスが味方のプレスと連動する意識が全くない事だ。
この為、前線中央では天野が全ての命運を握っており、ロペスが出ていって天野が調整をするという時は問題が無い。27分30秒、36分50秒のシーンは典型的だ。
所が天野が先に出ていく展開になると、ロペスはそれに応じて次を抑えるという連動性がまるでないのであっという間に破綻する。この為、天野はかなり抑制している。
前半一回だけ見せたGKへのプレス、45分20秒のシーンでは、天野がGKにラッシュをかけたがロペスは中央で動かずハイプレス回避されクロス攻撃につながり、上島がCKに逃げた。
象徴的シーンは56分50秒、喜田が右サイドからパスを追うように3人をプレスしている間にロペスは中央で棒立ち、遂には喜田が4人目のGKまでスプリントで詰める必要があった。エウベルは喜田に呼応してGKのパスを受けたCBにスプリントしている。
更には61分15秒、天野がボランチを見るように指示をしてCBからGKにラッシュをかけるもロペスは連動する意思を見せず、中央をジョグで前進するだけだった。
これを見たら流石にキューエルも代えざるを得なかった、という事だろう。
特に天野を下げるのだから、もう成立しなくなるのは必然であった。
まぁ相手が5バックになるんだから中央に2トップを残せばよかったのに、みたいなハマらない感じになるのだけど。
何処から誰にクロスを上げるのか
引き切った相手を崩すのは難しい、という言葉を忘れるような快勝をしたのがユーロ2024の決勝トーナメント1回戦で、まんまとジョージアのカウンターを被弾して0-1になったスペインだった。
ロドリというバケモノがいたとして、整備された立ち位置とウイングの活用という点は大いに参考になるだろう。
マリノスは左サイドの密集地帯に3人、4人と人をつぎ込んでいくが、中央は植中一人になってしまい、更にクロスも中々上がらない、カオスなアドリブアタックに終始してしまった。
平凡な解決策は5バックに対する配置として、サイドは2対2、ウイングで縦に引っ張って空いたスペースからサイドバックがアーリークロス、中央は常に2トップ、クリア回収とミドルに中盤に2枚、後方はGKを入れて3人でCBを押し出してサイドの2-2へ安定してボール供給。
ところがラインブレイクとドリブルが武器の選手が中央でつなぎ役をやっているのは一体なんの冗談なのかと目を覆うばかりだった。
あれなら天野を残してエドゥアルドを上げる為に松原CBにして井上をSBにするのならまだ理解できた。井上を縦に勝負させて戻したところからヤンがクロス、中央は植中とエドゥアルド、まだ確率が高いだろう。
リードしているチームが541で引いてくるなんて今や常識だが、それに対して毎度毎度、適当に選手を並べてアドリブアタックをするのでは正に神頼みと言える。
それでも準備をして挑む
結局の所、フットボールにおいて勝敗を決するのはゴール前のディティールだ。
現在、開催中のユーロ2024、決勝トーナメント1回戦。
俺たちのレッドブル式開祖ラングニック率いるオーストリアは見事だった。
見事なまでに圧倒的な論理的勝利を達成し、1-2で敗れ去った。
積み上げたゴール期待値は3.14、何となく沢山シュートを打ちましたでは済まない決定機のバーゲンセール。だが僅か2回、セットプレー絡みで得た決定機を両方沈めたトルコが逃げ切った。
フットボールは不確実なスポーツであり、どんな準備をしても負ける時は負ける。
だからと言って、最初から後は運任せで良い訳が無いだろう。
Sofascoreの機械採点 マンオブザマッチはポープの8.2、GK1対1が2回、計6セーブは珠玉の出来。