夢と希望を満ちたアジアの旅がACLファイナルの惨敗という結果に終わり、リーグという現実に向き合う時がきた横浜F・マリノス。
だが野々村チェアマンにより、増やすべきタイミングは果たして今だったのか!?と大きな疑問が残り、戦略性の欠片もなくシーズン移行よりも前倒しで今季導入された20チーム制がクラブに休む暇を与えない。
その中で迎えた現在リーグの1位、2位との直接対決でどちらも先制しながら逆転されるという結果で連敗に終わり、残念ながら24年はシーズン半ばにしてタイトルレースからの脱落が明白となったと言える。
この上半期の結果に対して、クラブの社長、キャプテンも自覚する様に、2位じゃ満足できないチームを応援する人々から、監督コーチ陣の手腕に対して疑問が出るのは当然だろう。
果たして本当に、彼らにマスカットのチームを継続した上で進化をさせる能力があるのか、と。
毎試合マリノスの試合が終わった後にエーックス!のスペースという機能で好き放題に話をしている訳だが、今回はアディショナルタイムとして記事に残しておきたい。
この記事は分析ではなく、あくまでもざつだんスペースの延長的な話である。
キューエルに求められた役割
2024年新体制発表会 動画より引用
https://www.youtube.com/watch?v=mO0ceW4ULoM
マスカットとの契約更新交渉が不調に終わり、次期監督を選定する必要に迫られたクラブは
・アタッキングフットボールの理解と継承
・アタッキングフットボールの深化
※進化ではなくこの表現。理解を深めていく事、と受け取るのが一般的
※ただし”理解を深める”が何を意味するのかは説明が無い
これらを条件とし、選定のプロセスとしてCFGとの議論もあったが、最終的な決定はクラブが行いキューエルを選んだ。
またクラブが発表したボードからも、アタッキングフットボールは変化していく(深化させていく)と想定している事が伺える。
その中で目標は達成すべきこと(譲れない要素)は大きく分けて2つ。
1、リーグ最多得点は成果であり、フットボールのスタイルが反映された物であり、これを変える事はなく継続していく。信念がここにある。
2、リーグのトップ層になり、日本を代表し世界と戦えるクラブになる。
ACL優勝とそれに伴うFIFAクラブワールドカップは達成指標となる。
キューエルはアタッキングフットボールを深化させているのか
上半期(17節終了時点)の中で見えた達成項目について伝えたい。
先ずマスカットが後方でボールを持ち引き付けるスタイルを導入した昨季から比べると、30mライン侵入、エリア内侵入、クロス数、コーナーキック取得など、高い位置でプレーする機会が増えている。
これを反映する様に1試合平均のシュート数16.2本はリーグ2位の数字であり、マスカット時代から半年で大きく向上している。
1試合平均
シュート数 13.9本 → 16.2本
それに伴うゴール期待値も22年水準まであと一歩まで回復と一定の成果は出ていると言える。
ExG 1.447 → 1.804
実際のゴール数は平均1.76から1.60に下落しているが、1試合辺りの決定機も2.6と同じであり、ロペスを始めとしてシュート成功率が軒並みダウンするなど、シューター側の問題も0ではない。
最も、ロペスばかりにシュート機会が集中している傾向があり、その結果、昨季チーム2位だったエウベルはここまで0ゴール、ロペスのシュート成功率もダウンするなどゴール前の抑えどころが対戦相手からすると分かりやすいかもしれない。
ロペスの場合、昨季は2855分で89本だったシュート数は、1119分で53本に達し、成功率は24.7%から18.9%まで下落している。
ヤン、宮市、植中、天野さらにはセットプレーでも機会が度々ある上島がゴール期待値を下回る。
計測が始まった2019年以降、マリノスの実ゴール数はゴール期待値を下回った事が一度もなく、現状は攻撃スタッツがいいのに得点と勝ち点が伸びない23年の広島化が進んでおり、成果を出しているとまでは断言できない。
キューエルの明白な失敗
マスカットのチームには明確な課題が見えていた。
被シュート数、それに伴う被ゴール期待値が、本来であれば優勝争いをする水準には程遠い、残留争いをするレベルだったことだ。
これはロングボールによるハイプレスの回避が進み、更に自陣でのボール保持を重視する特殊スタイルの弊害により、プレーが行われる位置が低くなりがちで、結果として自陣で守る時間が多くなるという、2017年モンバエルツ時代と類似した傾向だった。
しかし、被ゴールが何故か抑えられるという傾向があるのは、押し込まれればゴール前に守備選手が多い状態でシュート機会が訪れる為、意外と失点しないという、モンバエルツ時代であり、退場で10人になった時にも確認される、ミスが前提となるサッカ―というスポーツの原理によるものだろう。
シュートをボコボコに打たれても平均失点は1.12と上位水準だった。
しかし偶然性に委ねる解決方法であり、この改善は「2位じゃ満足できない」チームにとっては急務と言えるテーマであったのだが、上半期のデータから伺える事は失敗の一言に尽きる。
ハイプレス成功率は改善せず、微減とはいえ、むしろ下落。
更に失敗がシュートにつながるか、という被シュート率に至ってはリーグ20位、つまり最下位であり、ハイプレスという守備行為において、ボールを奪うという点ではそこそこ悪い(10位)が、ゴールを守れているかという点では論外の状態だ。
また、元々、怪しい所があったミドルゾーンでも昨季はとりあえずボールは奪えていた(リーグ5位)が、今期はボールを奪う事すらできなくなっている。(リーグ14位)
いや、そもそもミドルゾーンでプレスに行く頻度すら大幅に下落している。
フットボールラボ独自の指数でみると…
ポステコグルー時代は70を下回った事が無く(21年まで)
マスカットは恐らく意図的に60以上に調整したのが伺えるが(22,23年)
キューエルは56.4まで下落しており、そもそもハイプレスに注力しながら崩壊しており、ハイプレスの延長としてミドルゾーンでもプレスをしているという状態が作れていないのではないか。
またカウンターに弱いのはアタッキングフットボールの特徴でもあるが、それを封じ込める手段としてカウンタープレス、ロストした瞬間に激しく奪い返しを遂行する行動があるのだが、今期はそもそもこの指数も大きく下落している。
2019年 74.1
2020年 62
2021年 71.2
2022年 62
2023年 57.8
2024年 38.3
高けりゃいいという訳でもないだろうが、これが果たして深化なのだろうか?
先ほどのデータから今季は改善が見られる傾向として、ボール保持が上手く、敵ゴール前まで進出する頻度が高くなり、その結果としてチーム全体が前に出ている時間も増える中で、カウンタープレスの指数が低くなって何かメリットはあるのだろうか。
カウンターに脆いのも当然の結果だ。
どうすりゃいいのよ
先ず、今のマリノスには時間と共に劣勢問題が存在すると考えている。
それは鹿島、町田との連戦を通じて改めて確認されたが、アンカーを経由しない、アンカーから攻撃が始まらない事で、攻撃の選択肢が早い段階で限定され、修正しやすく、対戦相手は一度修正してしまえば、マリノスは対応できない、時間経過と共に窒息していく事だ。
現状のマリノスでは、いかにウイング、エウベル及び左が機能していないので、右サイドのヤンが敵陣でオープンになれるかが生命線となっている。
左からはやけくそカットインクロスがGKにキャッチされるかラインを大きく割っていく光景が多く目撃される。
右からは先ずヤンにオープンな状況を用意し、ハーフスペースへのスルーパス、カットインシュート及びクロス、ワンツー、サイドチェンジ(ウイングの1対1&永戸のクロス)と多彩な選択肢を提供できている時間だけが、良い攻撃をしている時間である。
快勝した柏戦は有利な内に相手を崩壊させ主導権を握り続ける事が出来た。
アンカーを経由しない敵陣侵入の仕組みとしてはGKと両CB、アンカーの4人に対して3人目となるサイドハーフを呼び込み、その裏をIHに当ててサイドバックが利用しファーストラインを突破すれば、瞬間的には松原とヤンが敵SBに2対1となり、一旦はヤンが敵陣でオープンになれる。
前半の25分までは何処のチームもそれなりにハマってくれたりするが、マリノスのCBに持たせる事は許容、妥協して一旦は後ろのリスクを潰すことを優先し、むしろSBを引き込み自陣での圧縮からのカウンター狙いに変更すれば良いと、普通のチームはすぐ気が付く。
ヤンが狩場になった鹿島戦などは修正効果の典型例だし、町田の平河の様な速い上に守備にもエネルギーを使う選手が居ればプレスバックで封殺される。そしてマリノスには再現性を伴う効果的な攻撃がそれしかないので、優勢な時間はゲームセットとなる。
徐々に被カウンター、更には自陣での守備、敵セットプレーの機会が増える中、敵のミス、即興的なカウンターやアーリークロスが刺さるのを祈るのみだ。
これはアンカーに資質のある選手が居ない事で、攻撃開始の早い段階で選択肢が無くなる事が問題であるし、監督がチームに変化の仕込みであり、試合中の変化を指示できない以上は(仕方ないので)個人能力で解決するしかない部分ではないかと考える。
この点、町田戦などは上島と渡邊が困っているのは明らかだったが、喜田に問題を解決する能力が無かったのは明らかだった。
何度も言うが、大前提として監督が先ず準備するべき物だが、監督がアイデアを落とし込めずに試合中の変更も出来ない中、保持率が65%に達する様な特殊な対戦相手とのゲームにおいて、個人能力で解決するしかない環境の中、アンカーとしての資質が無い選手を配置するのは無理があると改めて痛感した。
アンカーの資質、例えば同じくボール保持を徹底する新潟でアンカーをこなす秋山。
新潟は442ではと思う人がいるかもしれないが、ボール保持の時に秋山がアンカーとして振る舞っているのは3分も観ないで分かる事であるし、保持の中心にいるのは彼で間違いない。
その中で秋山の1試合平均のボールタッチ数は103回にも及び、CBと同数もしくはそれ以上となる試合が珍しくない。
一方で喜田のボールタッチ数は58.9回と、毎試合CBよりも20回以上少なく、ボール保持率が約60%に達するチームのアンカーとしては低い関与率だ。
ちなみにマンチェスターシティのロドリは1試合平均のボールタッチ数が121回に達する。まぁ、そこまでの必要は無いと思うが。
アンカーは特別なポジションであり、能力、才能といった資質、更にはこのポジションで成功体験を積み重ねてきた経験、培った個人戦術が必要となる。
足が速いだけの選手をウイングに置いても機能しないのと同じ事だ。
2位じゃ満足できないクラブであるマリノスはプロの環境において、アンカーとして成功したことがある選手を買うべきではないのか?
なぜアンカーだけは妥協するのか、それで上手く行くと思う理由は何か。アンカーというポジションを軽く見ているチームは大体失敗する。
例えばJリーグは30年以上の歴史があるが、屈強なFW、足の速いウイング、クロスの上手いサイドバック、プレーメーカーのボランチ、色んな選手が浮かぶだろうが、アンカーと呼ばれて思い浮かぶ選手がいるだろうか。
軽く見た結果、記憶に残る選手が一人もいない失敗の歴史だ。
ところが24シーズン、遂にアンカー=選手名 となる選手がJリーグに誕生した
60%を大きく越える圧倒的なデュエル勝率、喜田よりも1試合2回以上多いボールリカバリー、80~90回のボールタッチ数、質の高い各種パススタッツなど攻撃への関与。
特に、マリノス戦の2点目など、マリノスのハイプレスを崩壊させつつ、更に得点者である伊藤に縦パスを通す総合演出は圧巻の一言だった。
彼の活躍は上半期J1リーグMVPと言えるハイパフォーマンスであり、監督がやりたいサッカーをピッチ上で実現する上で、必須の選手をここまで完璧に用意してきた浦和は見事という他ない。
マリノスはシティとは構造が異なる訳であり、むしろどちらかと言えばアーセナルに近い事もあり、対戦相手によっては喜田で問題が無い時もあるが、監督が未熟な為にどうにもならなくなる試合があるのも事実で、個人能力で解決しようにもキューエルに選択肢が足りないのも事実である。
ただ、それを使いこなせるのかという部分で、未知ではあるとはいえ山根というカードがある中、交代枠3枚を残しフリーズしてしまう様子は監督としての資質を疑う光景だった。
監督もヘッドコーチもプロフットボールにおける成功体験が乏しいという点で未熟であり、彼らをサポート出来る経験を持つ人物が必要なのかもしれない。
アタッキングフットボールとは何か?
年末総括記事では守備スタッツが壊滅的状態であり、既に崩壊していた23シーズンが終わり、その改善を目的として、今いる選手が残る前提で433を提案した。
マルコスシフトからエウベルシフトへ
ところが、キューエル及びハッチンソンは結局ハイ&ミドルプレス、ハイからローまでのブロック形成においてインサイドハーフが1列上がっての442という方法を導入した。
別に問題ないと思うんですよ、1列目の2人が共に連続性を持った上で高練度に連携し、更に両ウイングが守備時にはサイドハーフとして、2列目に相応しい強度で上下にスプリントが可能であれば。
…キューエル及びハッチンソンは誰に何を期待するのか、間違えているのではないか。
いや、23シーズンを正しく分析したのかい?
問題が解けるのは問題を正しく認識出来た者だけである。
現状、マリノスの戦力編成はレアルマドリード的であり、それは前線の質に妥協しないが、あくまでも質に妥協しないのであって、監督がやりたい事にマッチするかは関係ないという事だ。
これはフットボールという答えなき問題に取り組む上で、信仰、信念の問題であり、前線の質こそが勝利への最短距離であり、監督のやりたい事などクラブは求めていないと、彼らの聖典にはその様に記されている為だ。
そして2024年、欧州チャンピオンズリーグ15回目の優勝でそれは正しいと証明された。
さぁ、話は最初に戻る。
アタッキングフットボールとは、クラブの理解として得点こそが成果であり、リーグトップの得点数はスタイルの反映である。そしてスタイルを維持しつつ、世界で戦えるクラブになればそれでいいのだと新体制発表会で説明された。
これがキューエルの達成目標であり、今期の戦力を用いて実現する必要がある。
アタッキングフットボールにはボール支配率が60%になる事も、監督がやりたい事をやる必要性も全く含まれない。
その現状として、中間発表をみるに1試合平均得点こそリーグ3位であるが、アルアイン、鹿島、町田、守備に自信があるチームには封殺され、カウンターとセットプレーに酷く脆い、世界で戦うというお題目には程遠い試合内容を繰り返している。
連戦で難しいというのもあるが、結果は結果であり、それを言い訳に何もしない状況ではないのではないか。
いま世界で戦うのに大きく足りない物は何か、もはやデータで示す必要性すらないのではないか。
マリノスの主武器なんですか?
リーグ2位のシュート率23%、リーグ2位の得点率を誇る攻撃方法はなんでしょうか。
ロングカウンターです。
何故か?ロングカウンターは個の質が重要であり、ミスが起きやすいパスと異なり、エウベル、ヤンの強烈ドリブラーがいる時点で武器になって当たり前である。
この点、ロペス、エウベル、ヤンが最も威力を発揮する状況をデザインして再現しつつ、更に守備の問題を解決する方法として…年末総括記事では433を提案した訳である。
その意図としては、ロペスがプレスの始動点になる守備、ウイングがハードワークする前提の守備、それは無理じゃないかと感じたのと同時に、自陣に引き込んだに後方のスペースを利用するマスカットのやり方を継承する事にもつながる一石二鳥。
ロペスのタスクを中央固定でGK-ボランチ間の制限だけに限定し、両ウイングでCBに当たる、1列目を2-1でプレスに行く、普通に433でプレスとブロックを作りましょう、それだけ。
インサイドハーフは死ぬかもしれないが…喜田、渡辺、天野と12㎞走れる選手は揃っており、山根、榊原、吉尾と交代出来る選手もいる。この点で喜田は優秀なインサイドハーフであり、この意見にモンバエルツは同意してくれるだろう。
ハイプレスが実質マンマーク化する時代、穴が開きにくい、穴が開いてもリスクが低い簡単なタスクを彼らに割り振るべきだろう。
それに奪うという意味において、本当の意味でプレスを誰が開始するのか、という点で前3枚はけん制役になり、インサイドハーフが担う事になるだろう。
更に、仮に敵のロングボールがつながり、自陣守備に移行するとして、エウベル、ヤンの担当が、両SBと異なり両CBであれば、滅多にゴール前まで上がってこない選手になるので自陣が安定する。
早い段階で前に人を送りすぎない事で、ロングボールを蹴られても7人いれば安定感が違う。蹴られる前提の人数配置をする。
かつて英雄の時代、マンマークで英雄を消すことで10対10のサッカーにするという概念があったが、マリノスはハーフラインより後ろは8対7でフットボールをやればいい。
また自陣守備にしても、中央にこの3人が残るとなれば、もしかすると敵はリスク管理にSBが1枚残らざるを得なくなり、マリノスが数的不利になる事は滅多になくなる。これで8対6。
え?同数でいいんですか?
という命知らずにはUAEの地でマリノスが味わったように、3トップの破壊力で沈んでもらえばいい。
ロングカウンターの設計、設定として、今の両ウイングが実質442のSHとなってしまうのと異なり、毎回エウベルとヤンの初期配置が高い状況でカウンターがスタート可能になる。
もちろん完璧な戦い方はないとして、今いる選手で何をやるかなのだ。
更に、過密日程、連戦の中で出来る事は何か、だ。
2020年、とんでもない過密日程の中で3連敗を喫したポステコグルーはウイングを廃した3バックを導入し、4連勝を達成した。
ハイプレスやハイブロックは交わさる&前進はされる前提で、ミドルゾーン以降の攻防比、しっかり守って殴り返すデザインがあれば、今の戦力からリーグ最多得点、更には世界の強豪と戦う事を想定したパフォーマンス、アタッキングフットボールは実現可能なのではないだろうか。
ボール保持、監督が仕事をするかアンカーで改善するしかないが。
ともかく戦力を顧みずに、現状は『上手く行ったら完璧』を求めすぎている結果、攻守に渡り何も上手く行ってない様に感じるのが実に勿体ないのである。