西野努氏がスポーツダイレクターに就任し、再び強いフットボールクラブのあるべき姿に向かい始めた横浜F・マリノス。
その根幹としてアタッキングフットボールというコンセプトを引き続き継続する事が社長より発表された。
監督の採用については、長い時間をかけて丁寧におこなってきました。その中で大事なことは、F・マリノスが掲げ、実践してきたピッチ上でのアタッキングフットボールをしっかりベースとしてやってくれる方
また会見の中では西野スポーツダイレクターからもアタッキングフットボールという言葉の曖昧さと、それによって生じる問題、更には明文化による改善なども語られた。
そして現時点における漠然とした理想としては以下の様になっている。
僕の考えるアタッキングフットボールの定義で、ポゼッション率が高いというところ、後ろで回せば当然ポゼッション率は高くなります。ではなくて、相手陣地内でしっかりとボールを持って保持してゲームの主導権をこちらが持ったまま、高い位置で相手のゴールに近いところで試合をやり続けるということがめざすべきところ
マリノスとして何をしたいか、これを明確にした上で邁進して行くのは進歩だろう。
ただ、来期に結果を残す事を考える上で、失敗した今期の反省という部分で、それはマスカットのチームを顧みるという事をせずに、選手は据え置きなのにゼロベースでスタートを切った結果、長所を見ずに改善を怠り、攻守がボロボロという状態になったのを忘れるべきではない。
この点、もしかすると選手を殆ど入れ替えるつもりなのかもしれないが、流石に1シーズンでそれは無理ですよね、という事で、あくまでもポステコグルーを否定するという革命を実現しつつ、現状をベースにアタッキングフットボールを深化させる案を考えてみる。
マリノスにおける近年プロセスの確認
先ずは求められるのが自己分析だろう。
攻撃を考える上で、ではマリノスにおける最も有効な攻撃方法は何か?
それは数年のプロセスやJリーグの環境、今いる選手達という戦力から顧みられるべきもので、ここ2年はカウンターアタックがゴール数の半分を占めるプロセスになっている。
ちなみに1試合2.2ゴールを決めていた2021年は14しかないが、22年は26、23年は31、24年は33と年々、カウンター依存度が高まった状態になっている。守備は上手く行ってないのに?
ゴール数とカウンターアタック
21年82G(14) 22年70G(26) 23年63G(31) 24年61G(33)
※21年と24年は38試合ほか34試合
特に、流動性を落とし配置でしっかりと敵を押し込む事に成功したキューエルが最もカウンターに依存しているのは皮肉が効いているし、フットボールの真理が詰まっている。
最後となった鹿島戦では闇雲に蹴り込んだロングボールからセカンド回収してショートカウンターから連続ゴールで逆転するなど半年の仕事を否定されて横浜を跡にした。
また、この理由の一つとして、今期のヘディングからのゴールは僅かに6Gと、21年と22年に記録した14Gの半分以下になっており、中で合わせる選手のクオリティも問題だったと言える。
ちなみにゴール数1位の広島は18とマリノスの3倍ヘディングでゴールを生み出している。(※荒木、佐々木、中野CB人のヘディングゴールは合計4しかない)
今期の失敗として、現状で最大の強みはカウンター=スペースに対する速攻である事を忘れるとキューエル再びになりかねない事を西野氏とスティーブ監督は確認して貰いたい。
改善点
・ポゼッションへの固執による弊害と無計画なロングボール
後方でのボール保持に価値を与えるべきではないのでは?
先ほど西野氏も言っている様に、ボール保持率が高いと言っても自陣である場合に、その評価を下げるべきだ。つまり自陣のパス数、保持時間が多い時は良くない試合をしているというチーム全体の認識を持つという事。
自陣でボールを持っているのは好まない状態、速く脱出するべき状態であり、究極はスキッペの様にとにかくロングボールという事になるだろう。自陣保持への拒否感と嫌悪、神戸と広島ではロングボールの意味が若干異なる。
この点、マリノスはショートパスを多用するとしても、それはアタッキングフットボールのコンセプトに沿った、あくまでもゴールを目指す為のプレーであり、それを表現する裏への一撃となるロングボール攻撃を整備する必要があるだろう。
・ボールを何処で持つべきか
今期、敵陣でのマリノスを思い出すと、先ずウイングに預けてSBとボランチが上がっていくという攻撃をした結果、サイドでボールを持っている時間が実に長かった。
最大の強みであるウイングのスペースを殺す事にもつながり、加入以降スーパーな活躍を続けたエウベルの様な選手でも活躍できない状況を生み出した。
後ろが追い付く前に自分で縦突破を選ぶ宮市がエウベルよりも活躍したのは理由がある。
右でヤンは狭い中でも何とかしたが、エウベルは大苦戦し、更にヤンもスペースが無くなった中で勝負を仕掛ける結果、被カウンターの逆起点となってしまうシーンが少なくなかった。
その時、SBとボランチはウイングより、つまりロスト地点より前にいる事が珍しくなく、被カウンターへのカバレッジも効かず、CBの両脇はオープン、CBが個に晒されるシーンが目立った。
敵陣の何処を制圧するのか、そこから目指すべき目標とルートは
各エリアで何をするべきなのか
ウイングは勝負しなきゃいけない義務を背負う。
コンビネーションをしている時間は無い。
その結果、縦突破シーンが増えるだろう。
ボール保持率がリーグトップレベルにも関わらず、中央保持からミドルパスでのタッチダウンという選択肢が今期のマリノスは全くなかった。
自陣でのボール保持が意味が薄い様に、サイドに追い込まれたボール保持にも意味が薄いという価値観をチーム全体として植え付ける事が出来るのか。スティーブに問われる仕事である。
これまでサッカー界で何かを成した偉人先人変人を思い出すに、敵陣サイドでボールを持てるのは3秒だけみたいなヘンテコルールがあると面白いかもしれない。
ハイプレスの再定義
ポステコグルーが残す負の遺産と化しているのがハイプレスだ。
この点は監督以下が刷新する事で、大幅な改善を期待したい所だが、改めて世界水準と比較をすると、崩壊以外の言葉が見つからない。
そもそもハイプレスは楽をする為の物じゃない。
ずっと攻撃をしたい、敵の攻撃を早く終わらせたい、敵を見て出て戻るを繰り返すの疲れる、戻って守備するの面倒くさい。段々と楽をする為の言い訳になってきていないだろうか。
常にラッシュを、ボールホルダーから奪うプレスを仕掛けるハイテンポなスタイルが成功したのは事実として、今や何となくボールホルダーにスプリントしていれば守備をしているような状態になっている。で、プレスを外されたら戻ってこない。
特に今期のJリーグで証明された様に、走行距離をベースに常にラッシュ的なハイプレスをしかけるのはリスクが極めて高くなっており、新基準に対応できないマリノス、鳥栖、京都あたりは苦しんだ。
この点、例えば今年開催されたユーロではどうだったのか。
明確にラッシュ的なプレスを仕掛けるタイミングは敵がエリア内にショートパスを蹴るゴールキック。
ここではプレス隊に参加する前の全員が連動してフルスプリントする事を求められる。
しかし後はせいぜい、ミドルゾーンからのバックパス等でミスが発生した時のみ。カップ戦という事もあり、優勝したスペイン代表ではリスクのあるラッシュ的なプレスを行うシーンはゴールキック以外では殆ど無かった。
敵の攻撃と保持に制限をかけるミドルプレス、ミドルブロックが優秀だった。
参加国の中ではスイスの様なマンツーマンはあったし、やるならそれくらい覚悟を決める必要があるだろう。
ラッシュ的なハイプレスはピッチ上の全員が連動する為にタイミングこそが命。
敵ゴールキックほど全員が統一出来るタイミングは試合中、滅多にない。
更に行くべき時が限定されるからこそエネルギーを爆発させられる。
またリスク管理としてオフサイドラインはハーフラインではなく、3m後方だった。
ちなみに今の欧州では、一時期は超ハイラインで話題となった連勝街道だったバルセロナも、かつてのマリノスの様に対角線ロングボールと、2列目の裏抜けに大苦戦して連敗中だ。マリノス対策は簡単で強いのだ。
ミドルプレスとカウンタープレスの目的を再設定
スティーブがここに重点を置けば、シーズン序盤は確かに守備は良くなったがどうしたアタッキングフットボールは、と言う状態になるかもしれない。偏りあるある。
まぁ先ほど述べた様にカウンターに向いている、質で完結させる選手は十分揃っているのでゴール数は24年よりも減らない可能性がある。どうせカウンターでしか…
兎に角、前の選手でパスコースと方向の限定が全然できず、その結果としてチーム全体でスペースの制限も出来ず、やられ放題なミドルゾーンがここ2年の特徴だ。
決して良くなかった23年と比較しても1試合平均のタックル数インターセプト数は激減。
タックル 14.5→11.6 インターセプト 10.4→7.9
ファールとイエローカードは増加 10.6→11 0.9→1.4 と後方にしわ寄せが向かっているのは顕著だ。
更にロスト直後にカウンタープレスを仕掛けるシーンでは闇雲に突撃して交わされるシーンも目立つなど、あまりにもギャンブルなプレーが次々と崩壊を招いた。
奪うタックルではなく制限を優先するべきシーンが多いように感じた。
もちろん、ロストした位置、選手の配置、更には過密日程によるスタメン選手の疲弊と、実力差がある2番手という問題もゼロではないのかもしれないが、そこまでリスクの高いプレーをする必要があるのかは考えるべきだろう。ACLEや世界で戦う事を視野にいれるのであれば。
制限してスピードダウン、そして人を捕まえるというオーソドックスな基準を持ち込む事を期待したい。
被プレス回避とスクランブル対応
余りにも脆かったプレス回避の状況。
マークの受け渡しやプレスバックで人を捕まえる意識、スペースを埋める意識、
人数は揃っているのに簡単に失点するシーンが目立った。
この点、先ず改善すべきは相手の前進が止まるまでのプレスバックは義務化。
特にハイプレスでマンツーマンを一度始めたら、相手がボールを失うまで、自陣までだろうと続けるのが当たり前だ。出来ないならやらない方がマシ。
ちょっと外されると上がっていくボランチやサイドバックを歩いて見送りではマンツーマンは成立しない。
また、パニックになったCBなどが無暗に飛び込まずに、ラインを維持して撤退しスペースを埋める事を優先するなど、失点しない確率を高める規律の徹底が求められる。
方法論やテクニカルな要素は心配をしていないが、チームは規律を守れるのか、スティーブ監督のマネジメント能力が問われる。
アタッキングフットボールを深化させるには?
ポステコグルーと共にJリーグに革命を起こしたのが5年前。ただ勝利するだけでなく、他クラブの意識を変え、インテンシティ、特に走力に関わる部分についてはかなりアスリート性能が求められる状況にJリーグは変貌を遂げた。
更に、その余波として関連するコーチ達は継承者や弟子として、Jリーグにオーストラリア人需要を引き起こしている。なんか…すいません…
一方で当時から非効率な事、試合の開始前から収支として不利になるようなロジックがあったのだが、それを止める勇気も必要かもしれない。
それら行為はやり切る覚悟を集約する為に行われていたある種の儀式の様な物で、これから先は負の遺産になりかねない物だ。
相対的に走力、インテンシティで優位性が生み出しにくいという環境変化の中、不合理をねじ伏せるパワーが生み出しにくい中で、少しでも勝率を上げる為に、合理的な思考で統計的アプローチを採用する時が来ている。
アタッキングフットボールを実現する手法として、ポステコグルーがもたらしたアーキテクチャ(設計思想)では限界が訪れているのは明白だという事だ。
人材の枯渇を感じさせるキューエルと共に、サイクルは完全に終焉を迎えた。
新しいアーキテクチャの採用、これこそがアタッキングフットボールの深化になるだろう。
なので前回の記事で触れたように、かつてポステコグルーが行ったように、今年1年では無理であるので現有戦力を活用して結果を残しつつも、最終的に選手は大幅に入れ替わるのも仕方がない事である。
マリノスは次シーズンへのアプローチとして、修正や微調整の範囲ではない改革に踏み切る可能性があり