横浜F・マリノス ファン

横浜F・マリノスを応援するイチファンによるブログです。

マリノスが変えたJ1リーグ・英プレミアリーグを圧倒する走行力

かつてオシムは言った、日本人らしいサッカーをするべきだ、と。

 

その成果が反映されたのか、2022カタールワールドカップにおいて、W杯優勝国であり、大会優勝候補でもあった2つの強国に勝利したのは記憶に新しい。

 

なぜ日本は勝てたのか、その理由は2019年マリノスの優勝以降に、環境の激変が起きているJ1リーグに見出す事ができるかもしれない。

 

 

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s://twitter.com/prompt_fmarinos/status/1649772404854652928?s=2引用元

https://twitter.com/prompt_fmarinos/status/1649772404854652928?s=20

https://twitter.com/prompt_fmarinos/status/1649772404854652928

 

 

 

世界基準ってどんなもんよ?

 

そもそも、世界最高峰のリーグにおいて、総走行距離ってどんなもんなんだろうか?

この点が気になり英プレミアリーグのデータを調べてみた。

 

が、昔は公式サイトにあった筈なのに、今は総走行距離の項目がマッチデータにも見当たらない。※どこか見れるところがあれば教えてもらいたい。

 

この為、メディアの記事をベースに話をする。

 

19-20シーズンの総走行距離データ

 

1位はブライトン 4280.7km 1試合平均は(112.65km)

同年2強のシティ 4173.4km(109.82km)、リヴァプール4150.1km(109.21km)

 

大体、シーズン平均だと109kmがベースの数字になる感じではないか。

 

 

総スプリント リヴァプール 3980回 (104.73回)

 

スプリントのトップスピード ランキング

1位 アダマ・トラオレ 37.78km/h
2位 アーロン・ワン・ビッサカ 37.60km/h
3位 メイソン・グリーンウッド 37.60km/h

 

 

トップスピードを見ると、流石バケモノだなと思いますが、昨今のJリーグファンならアレ?っと思うはず。

 

総走行距離、少なくね?

 

 

※GKを含まないのか等を思いましたが、そのような特殊基準はどこにも書かれて無く、またプレミアリーグにはGKのエリア外クリアの様な、GKの走行距離も関わるスタッツがあることから、全員の物として考える。

 

引用元 

https://www.soccer-king.jp/news/world/eng/20200729/1101975.html

 

 

 

J1リーグと英プレミアリーグを比較する

 

今回、シーズンが始まった直後である2023年の現時点と、丁度よい比較データとして、下記の物があった。

 

21-22シーズン 開幕7試合のデータ

https://theanalyst.com/eu/2021/10/season-snapshot-storylines-from-the-premier-league-so-far/

 

 

このシーズン、走りでリーグを圧倒していたのがリーズ。

 

数字を抽出すると、総走行距離 764kmは2位以下と誤差ですが、スプリント数1210回は2位サウサンプトン997回を大きく引き離す。1試合平均にすると172.85回となる。

 

 

先ず、J1リーグとの比較における総評として、総走行距離は全体的に少なく、スプリント数もリーズが異常なだけで、2位以下はJ1リーグと差が殆どない。

 

 

また、若干スプリント数について補足をすると、Jリーグが以前の基準、時速24kmで計測していた時代だと、173という数字はマリノスの平均以下でしたが、23シーズンから適用された新基準時速25km以上だと、なかなか出ない数値になると思われる。

 

マリノスだと、今の所、横浜FC戦の173回、1試合のみ。

 

更に、基準変化の影響を探ると、昨季34試合中、28試合で173回以上、更にその内200回以上が19回という数字を残したサガン鳥栖でしたが、今季は8試合で最高165回に留まっているのをみると、時速1kmの差はかなり大きいかもしれない。

 

 

マリノスの2023シーズン 7試合時点の走行データは以下になる。

 

総走行距離 847.25km 1試合平均 121.03km

ワースト 札幌戦 110.94km

 

ちなみに77分で退場者が出た広島戦もリーズの平均を10km以上、上回る124.36kmを計測している。

 

リーズ

総走行距離 764km 1試合平均109.14km

 

 

 

J1リーグも2019年まではプレミア基準だった

 

マリノスが優勝した2019年、何が起きていたのか。

以前に、走りに関するデータをまとめた記事を作成した。

 

 

speir-s.hatenablog.jp

 

 

2019シーズン、マリノス以外の上位陣のデータは以下になる。

 

<2019シーズン 2位~4位の1試合平均の総走行距離>

 

2位 FC東京 109.869km

3位 鹿島 109.877km

4位 川崎 105.685km

 

19-20シーズン ブライトン 112.65km

21-22シーズン7試合平均 リーズ 109.14km

 

 

そうなんです、2019シーズンの時点では大して変わらなかった。

 

これに対して2019シーズンのマリノスは 116.647kmと差を付けた。

ピッチに対するカバレッジパワー(造語)が、選手0.8人分の差がつくと言うこと。

 

更にマリノスは、このシーズン、ボール保持率が61.4%を記録しており、よくある守備の為に走るだけでなく、守備の時間が一番短いリーグで圧倒的にボールを保持するチームだった。

 

 

走れば勝てるという物ではない、という説があると思う。

事実、この2019シーズンもとにかく走るしかないと走った松本山雅が降格した。

 

ところが、対面の敵に走り勝つ効果は上位陣4チームでも以下のように確認された。

 

 

明確に走り勝った試合  22試合 17勝 5分

僅かに走り勝った試合  20試合 16勝 2分 2敗

 

僅かに走り負けた試合 27試合 10勝 8分 9敗

明確に走り負けた試合 27試合 11勝 14分 7敗

 

※明確 3km以上 僅か 3km未満1km以上

 

マリノスは僅か~以上の試合、17試合で14勝3分であった。

 

走らないを標榜していた川崎ですが、総走行距離が低くても、相手を走らせない事で、結果として走り勝つ必要があり、走り負けると勝率、勝ち点率が明らかに落ちていた。

 

この結果を受けて、20シーズンはコロナ禍によって異常な、計測の意味を持たないシーズンとなったが、J1リーグは大きな変化が起きた。

 

 

 

走り革命の寵児サガン鳥栖と+1人の衝撃

 

先程、触れましたがマリノスについで現れ、革命の先端に立ったのは鳥栖であった。

 

なぜあれだけ選手が入れ替わっても降格せずに戦えているのか。

 

それは走る事を優位性にするべくチームの構造に組み入れ、そして走るという常に発揮されやすい安定した能力をベースにした選手を揃える事に成功したからかもしれない。

 

走ったから勝てるとは限らないのですが、なぜ走るのか、走る事によって生じる優位性、これがチームとして定義されているのであれば、全ての試合で安定して発揮されやすい効果となり、パッシブスキルと言える。

 

22シーズン鳥栖

 

鳥栖は基準が他とはことなります、データの上と、下に顕著な効果が現れる。

 

走り負けた~3km以上走り勝てなかった試合 11試合 1勝5敗5分

 

敵チームに対して8km以上走り勝った試合 6試合 5勝1分

 

 

リーズどころじゃない、フットボールにおける走り革命のチーム、それが鳥栖

 

川崎戦では谷口が退場したので計測外と言えるが、敵に退場者なしで10km以上走り勝った試合が2試合ある。どちらもFC東京戦。

 

FC東京戦 11.61km 11.17km を記録している。

 

特に2試合目は6月下旬に気温27.6度(日中気温31.5度)を記録しており、その中で普段通り120kmオーバーした鳥栖に東京の選手はまるでついていけず、5-0の圧勝となった。

 

走行距離10kmとは選手が一人いるかいないかの差。

 

世の中で戦術を語る人々は全く鳥栖の総走行距離に注目をしていないようだが、退場者が出ていないのに1人少ない状況に陥る魔法の戦術として、記録されるべき事例だと思う。

 

 

ちなみに今年もFC東京戦では、終盤に交代枠が無いのに一人プレー続行不能な選手が出たにも関わらず、9.87kmの走り勝ちを記録しており、1-0で勝利をした。

 

途中出場の選手が脚を痛めてなければ…3試合連続で+10kmの金字塔まで届いただろう。

 

 

そしてマリノスも22シーズン、+10kmゲームが1度あった。

もちろん、対戦相手に退場者はいない。

 

2022年10月29日の浦和戦で、+10.41kmを記録し、4-1で圧勝している。

 

また、FC東京には+7.09km、昨季の天敵と呼べるほど苦戦させられた広島に唯一、3-0で快勝したゲームでは+6.13kmを記録。

 

他にも、1-2の川崎戦、+4.21km 4-2の川崎戦では+5.61km。

 

3-3だった浦和戦は+4.83km、大惨敗の広島戦では-1.02kmと同じ対戦相手に対して、走り勝った結果が残るゲームの方が、良い結果になっている。

 

もちろん、走りたくても走れない、あくまでも相対的な競技なので、頑張ってないから走ってないという事はない。走り勝ったゲームをロールモデルにどうすれば再現できるのか、を考える必要がある。

 

 

また、11人いるのに衝撃の1人足りないレベルまで達しているFC東京、浦和ですが、両チームの監督はアルベル、リカルド・ロドリゲス(対戦時)、Jリーグでスペイン人監督が苦戦する理由の1つが垣間見えたかもしれない。

 

例えばゾーンディフェンスを重視し、追いかけず、結果として走り負けても良い、という影響が出ているのか。だとしても許容限界があるのかもしれない。

 

シティとの対戦時はマリノスはかなり未完成でしたが、昨年ローマとの対戦で見せたように、どんな強豪であれ、初見であれば圧倒する事も出来るかもしれない。

 

カタールで森保のチームがやったように。

 

 

 

マリノスと川崎を止めろ J1リーグ革命

 

時は進み2023シーズン。

 

マリノス以外の上位陣(8節終了データ)4チーム、7試合消化時点での走行データを抽出した。

 

プレミアリーグ21-22のリーズと同じ程度で109km前後だったJ1リーグ上位陣の動向はどの様に変化したのか。

 

<2019シーズン 総走行距離1試合平均>

2位 FC東京 109.869km

3位 鹿島 109.877km

4位 川崎 105.685km

 

 

<2023シーズン7試合終了時点データ 総走行距離合計・1試合平均>

 

1位 神戸 811.76km 115.96km
2位 名古屋 830.05km 118.57km
3位 広島 803.51km 114.78km
4位 浦和 814.31km 116.33km

 

参考

プレミアリーグ19-20シーズンで1位だったブライトン 112.65km

 

 

マリノスの優勝、そして鳥栖の革命、ポゼッション重視チームのタイトル寡占…

 

その結果、J1リーグは英プレミアリーグを凌駕する総走行距離型に変化を起こしているのかもしれない。

※ただJ1リーグは真夏期があるので絶対に今より下がる、まだ分からない。

 

 

走りによって生まれるピッチのカバー率、カバレッジパワー(造語)の向上、それが最も力を発揮するのは、マリノスのような強い意志でボールを保持し続けるチームに対する守備であり、カウンターにおける攻防の両局面となる。

 

「走るだけでは勝てない」

 

だが、それが最適化された結果、12人目、もう1人の選手にまで達したらどうなるだろう。それに対抗するには自分達も走り、走り負けても0.5人程度までに抑える必要があるかもしれない。

 

そして更にボールを保持し、選手は常に動き続け、流動的にポジショナルな戦いを仕掛けてくるチームに、守るだけはなく、勝つために対抗するには?

 

 

なぜ、ヨーロッパから来た外国人選手がJリーグを速いと言うのか。

 

web.gekisaka.jp

「どれだけ走ってもまるで疲れることを知らない。非常に発達したフィジカルを誇り、ハードワークと規律正しさが目立ちます。もちろん、私もハードワークと規律を怠ることはありませんが、Jリーグは強いフィジカルが求められると身をもって知りました」

 

 

かつて散発的に走るチームというのが現れたが、環境を変えるまでには至らなかった。

 

ところが2019年以降、走行距離を武器するチームが躍進し、走行距離を武器にはしないが相対的に凌駕されないウィークポイントにならない準備が必要になり、更にはタイトルを寡占するチームに対抗手段として走行距離が求められる事もあり、2019年以降のJ1リーグはよりフィジカルなリーグに変わり始めているのではないだろうか。

 

 

 

 

走り勝ち型と走り負け型 広島は走れない

 

1つ大きな勘違いとして、あくまでも相対的な競技であり、重要なのは敵に走り勝ったか、そして走り勝つ事がチームのパフォーマンスに影響を与える構造なのか、である。

 

例えば走り負けても良い構造のチームでは、走行距離が伸びるのは自分達が走りたいからではなく、結果として敵に増やされてしまうが、それは問題ないという場合もある。

 

更にはそういったチームが一定数居るとして、環境として走り勝つ事を構造として求めてるチームが増えたので、リーグ平均の総走行距離が増えるという効果にもつながる。

 

 

この中で上位陣(8節終了時点)を見ると、走り勝ち型と、走り負け問題なし型が分かれる。

 

1位 神戸 8試合中6試合で+1km以上走り勝ち

2位 名古屋 8試合中6試合で+1km以上走り勝ち

 

3位 広島 8試合中6試合で-1km以上走り負け

4位 浦和 8試合中4試合で-1km以上走り負け

 

 

特にイメージと異なるのが広島だろう。

22シーズンも-1km~+1kmの微差が6試合、10試合以上で-1km、9試合で-3kmを記録している。

 

つまり彼らはあくまでも、とにかく自陣ではプレーしない事を目指した、位置のフットボールであり、走るサッカーのイメージとは程遠いハイプレス特化型チームと言える。

 

とはいえ、昨シーズンでは退場者が居ないにもかかわらず、-8.64km差がついたG大阪に0-2で敗戦、-6.13kmの差がついたマリノス戦では0-3で敗戦しており、限度はありそう。

 

また22シーズン、沢山走らされた試合(総走行距離113km以上)では13試合 3勝3敗7分 とまるで降格圏の成績になっている。

 

ちなみにこの3勝は全て対戦相手に+1km以上走り勝っており、沢山走らされると走り勝てない、という関連性があるかもしれない。

 

C大阪戦3-0 +3.66km 磐田戦3-0 1.71km マリノス戦2-0 +1.09km

 

 

 

 

マリノス2023モデルは

 

現状マリノスは優秀な競技力を維持する為のスキームが機能し踏みとどまっているが、リーグを牽引してきた上位陣に、選手の引き抜きを含めたサイクルの終焉を感じさせる2023シーズン、この新たな環境下でアタッキングフットボールをどの様に進化させるのか。

 

シーズン序盤は全選手の戦力化作業を急ぐマスカットが、後半に向けて目指すデザインは、新たな優位性をどこに見出すのか。

 

 

1つ発見したデータとして、昨シーズンを2019シーズンと比較すると1つ改善点が見える。

 

2019シーズン +1km未満もしくは走り負けた試合が17試合あり、その内2試合は最下位降格の松本山雅なので除外するとしても、通算成績は以下になる。

 

 

2019 15試合 6勝8敗1分 勝ち点率 19/45  42.22 %

 

 

そして22シーズンは以下になる。(清水、磐田戦は走り勝っているのでない)

 

2022 14試合 7勝4敗4分 勝ち点率 25/42  59.52%

 

 

圧倒的な走り勝ちはマリノスのサッカーが出来ている1つのバロメーターであり、理想としては圧倒的に走り勝つ様な数字が残る事になるゲーム展開であるが、

 

それが対戦相手との関係で出来ない時に、それでも勝ち点を取れる様に、改善を目指しているのかもしれない。

 

もしかしたら圧倒的な走り勝ちが好調のバロメーターとはならない、別のモデルを目指している可能性もある。

 

この点はもう少しシーズンが進み、データが揃わないと結論が出ない。

 

 

 

 

Twitterではマリノス中心にツイートをしています。

 

リーグ戦の試合後などには、スペース機能を使って音声コンテンツ・試合後雑談を開催中。

 

twitter.com

 

 

さて余談ですが、Jリーグのレベルは~という意見を目にする事があるが、今風にいうのであれば、それってアナタの感想ですよね?という話。

 

両軍総走行距離120kmオーバーの激しい運動量、150回を優に越えるスプリント数、J1リーグで展開されるフットボールは間違いなく世界有数に、英プレミアリーグをも凌駕する、フィジカルな激しいフットボールであるのは計測されるデータからも明らかである。

 

いつまでも昔のイメージで語っていると時代錯誤と言える。

 

もちろん、よりダイナミックに進化する上で課題は最高速度とパススピード、の二点が上げられる。これらは瞬間的な力であり、筋肉の質や量に関わるので簡単には解決しないかもしれない。

 

 

しかし、思えば2018年ロシアワールドカップの時点で、総走行距離、スプリント数、最高速度と、ピッチ上で最高数値を記録したのは原口や長友といった日本人だった。

 

相手がセネガルであろうと、ベルギーであろうと。

 

走力と、走力によって優位性を生み出す構造、これこそが日本人らしいサッカーではないか、と分かったかもしれないカタール2022であったが…

 

またポゼッションとかいい出した上に、それを名波に任せるのは不安しかない。

別に勝敗において結果が出ない事はあるかもしれないが、彼が監督をしたチームがそんなプレーをしていたんでしょうか。

 

2022シーズンの横浜F・マリノスを振り返る

2022明治安田生命J1リーグを制し、2019年以来の王座奪還となった横浜F・マリノス

 

 

画像

引用元 https://twitter.com/prompt_fmarinos/status/1589564177215279105

 

 

マリノスが今期、どの様にシーズンを戦ったのかを、いつもより一月も早く終わり、未だ時間は残されているとワールドカップにかまけた結果、むしろいつもより遥かに遅くなったが振り返っていきたい。

 

ライバルが苦しみ、大きく勝点を減らす中、マリノスは今期のJ1リーグに起きた劇的な変化の中、いかにその環境に適応したのか。

 

 

戦力編成

 

孫子の兵法を持ち出せば、戦いは始まる前に終わっている。

 

現代のフットボールシーンにおいて、チームのコンセプトに合致したスカッドの編成は何よりも重要であり、日本代表の様な重要なゲームの直前までファジーにかまえて準備も殆どしないようなチームと異なり、マリノスの様な、やる事が明確であればあるほど、その重要度は高まる。

 

先ず前提として、マリノスは22シーズン、その開幕を前に、得点王とリーグNo.1と呼ばれる不動のセンターバック、更には他主力と呼べる優勝メンバーを失った。

 

これに対し、新規加入として他チームから引き抜いたのがロペス、西村、ジョエル、永戸、エドゥアルドであり、リーグ戦だけでも彼らの合計プレータイムは9061分に達した。

 

※選手5人が34試合フルタイム出場すると15300分 9061分は約60%に該当

 

 

各セクションでみてもロペス、西村はエウベル、水沼と同等の1700分台とウイングの軸に対する中央の軸となり、永戸は小池龍太とほぼ同数の2147分、ジョエルは喜田に迫る1516分、エドゥアルドは複数ポジションで起用された岩田を除けばセンターバック陣では最長と、この買物が最良の選択であった事に議論の余地が無いだろう。

 

特に、スプリント王に変わって誕生したマップ兵器ランニング王・西村、停滞しきっていた左サイドとセットプレー攻撃を復活させた永戸、センターバックとして強いとは何かを示したエドゥアルドは欠かせない存在となった。

 

ほかベストイレブン級の彼ら程ではなかったが、ロペス、ジョエルも十分なインパクトを残したし、更に来季、向上する余地を大きく感じさせた。

 

終わってみればの結果論かもしれないが、有力選手の後釜が、補充と呼ぶにさえ値しない結果に終わり、大きく戦力を落としたライバルとは、戦う前に勝敗が決していたと言えるかもしれない。

 

 

ACL&冬ワールドカップ日程との戦い

 

忘れてはならないのが今期はセントラル開催のACLだけでなく、史上初の冬ワールドカップ開催が重なった異常日程を再び強いられたシーズンであった事だろう。

 

先日の皆既月食も、重なるのは200数十年後らしいが、冬ワールドカップは最後かもしれない。

 

ここで特に軽視されがちだが、シーズン開幕からのリーグ連戦は大きなダメージがあるのだと、分かったことだ。

 

同じくACL日程に苦しんだ昨季3位の神戸は10戦0勝6敗と残留さえ危ぶまれる事態になり、スーパーカップで川崎を下し、飛躍を期待された浦和は10戦2勝4敗と、早々に優勝戦線から脱落していった。

 

カップ戦が入るからシーズンの日程が過密なのと、リーグ戦の日程が過密なのは大きく異なる意味を持ち、リーグにおけるポイント=勝ち点だけを考えた場合に、極めて不公平だと指摘したい。

 

 

今期見られた事として、開幕直後は起きやすい比較的小さな怪我だとしても、主力選手が戻ってくる迄にリーグの試合が数試合飛んでしまう。更には状態が上がらない状態で直ぐに次の試合がやってくるが、代わりがいないので出るしか無い。

 

他にもシーズン前に大幅な選手の入れ替えを行ったマリノスにとっては、正に耐え時と呼べる2ヶ月だった。

 

その中で迎えた4月の広島戦は、どうにかやりくりしてきたマスカットの運用も遂に限界を迎えたと言えるゲームで、マリノスは一切に何もプレーをしない、ポステコグルー就任以降の数年間で振り返っても、間違いなく最低と言える内容だった。

 

ハイライト動画の再生数がたった7000しかないように、何も見るべき物がない、誰も思い出したくもない試合と言える。

 

分かっていても、どうにもならない切なさ、を噛みしめるかの様なゲームだったのだが、だからこそ次の鹿島戦で見せた見事なまでのリバウンドメンタリティは特筆に値するだろう。

 

前半から多数の決定機を鹿島に作られる中、高丘の神がかったセーブでしのぎ、自信を取り戻すと、後半は選手の質で一方的に殴りつけ、絶陸の孤島にある風車しか無い要塞カシマスタジアムを陥落させる3-0で完勝、22マリノスの強みが凝縮された90分。

 

今期は福岡戦の後の6連勝や、夏未勝利から迎えた湘南戦、連敗からの浦和戦など印象的な試合やストーリーは多数あるが、このゲームこそ、シーズンの趨勢を分けた分水嶺であったと考える。

 

ハイライト|J1リーグ第8節|vs鹿島アントラーズ - YouTube

 

 

 

戦力運用

 

2019シーズン、マリノスの優勝はJリーグに革命を起こした。

最先端をキャッチアップする重要性、走力、インテンシティの再発見…

 

そして22シーズン、再び他のクラブに新たな指標となる違いを見せることになった。

 

それは過密日程の消化のみならず、5人交代制と言ったルールの利用に留まらない、

より激しく、速く、強度が上がったフットボールを戦う選手運用のネオスタンダード。

 

 

この記事は6月時点でのデータになるが、今期のプレータイムが総プレータイムの70%以上に達している選手が、上位陣の中でどれだけいるのか、を調べたものだ。

 

speir-s.hatenablog.jp

 

詳細は記事を見てくれ、とするのだが、この時、特に特定選手への強い依存が見られた柏はリーグ戦終盤では以下の成績となった。

 

柏 10戦0勝5敗

 

また、夏までは強かった広島だが、9月以降は2勝しかしていない

7戦2勝3敗、他にも特に重要なゲームとして天皇杯甲府に対する敗戦などもあった。

 

アスリート性能が重視される激しさを増すフットボールシーンを戦う為に、

シーズン終盤へ向けた準備はシーズンの最初から行う必要がある事を知らしめた。

 

 

また試合中における選手交代の特徴として両ウイングの入れ替えは定番となっているが、

 

ポリシーとしてマリノスは戦い方を変える事はなく、むしろ同じこと(敵DFラインに対し、スピード差という優位を突きつける)をやり続ける為にこそ行われる交代と言える。

 

だからこそプレータイムを重視し、ある種の定番となっている訳だが、その目的こそ異なるとしても、今期この影響を最も受けたのが、マリノスの試合に足繁く通った日本代表監督なのかもしれない。

 

 

 

知識の普及による環境の変化

 

今期J1リーグの生態系に大きな変化が見られた。

それは守備力(=失点数)の均等化である。

 

例えば、21シーズンにおいては堅守と考えられるシーズン総失点30点台(39点以下)は全て上位陣で、40失点以上したクラブは8位の福岡(37失点)よりも上にはいない。

 

更に、50失点以上したクラブは通常より4試合多いことから、半数の9にも及び、守備力の構築こそがリーグ順位を上げる手段だったと言える状況であった。

 

所が、今期22シーズンにおいては、16位の京都サンガマリノス・名古屋に次ぐ総失点数3位の38失点となるなど、大きな変動が見られる。

 

今期の30失点台(39失点以下)のクラブは

 

35失点 名古屋 8位

38失点 福岡 14位 京都 16位

39失点 浦和 9位 湘南 12位

準 41失点 神戸 13位

 

また備考として、55失点の札幌は大量失点した6試合を除けば1試合1失点ペースであるし、44失点のG大阪も監督交代以降は10試合で7のクリーンシートゲームを達成するなど、下位クラブが一定水準以上の守備力を備えていたと言える。

 

 

一方で、上位陣の川崎、広島、鹿島、C大阪FC東京、柏は揃って40失点以上しており、39失点以下だったクラブが1つもない稀有な結果となった。

 

2~5位に39失点以下のクラブが1つもなかったのは恐らくJ1リーグ史上初の事態では無いかと推測される。昨シーズンよりも試合数が4試合減っているのに、上位陣は軒並み総失点が増加している。

 

なお、川崎は守備の要であるジェジエウの影響を指摘されるが、彼が復帰した浦和戦以降の14試合で20失点もしており、個人で解決できる問題ではない事がわかる。

 

 

この逆転現象について考え、下位の得点力という部分を見ると、今期のJ1リーグではゴール期待値が1未満のチームが1つも存在しないなど(昨季は4チーム)守備力のみならず、各チーム1試合1点は取れるロジックを持っている事が確認できた。

 

つまり、一定以上の守備力を持ち、しぶとく戦える相手に対し、上位陣は勝ち点3を求める戦いをしなければならない難しさ(日本代表のコスタリカ戦やクロアチア戦のような構図)が現れているのではないか。

 

 

今回のワールドカップを見ても、選手のクオリティをベースに、実力差が存在していても、しぶとく戦う為のテンプレートが既に広く普及している事がわかった。それは監督が知らなくても、選手が教えるくらいに知れ渡っていると日本代表からも分かる。

 

そして更に、日本代表を見ても分かる通り、一定水準の選手がいればろくに準備していなくても直ぐに効果を発揮する事が確認できた。

 

今やワールドカップは何かを発見するラボではなく、世界のトップシーンで既に起きてることが反映しただけであり、森保監督はドイツに45分間一方的に殴られるまで気が付かなかった523(541)であったが、既に今期のJ1リーグでは広く普及し、日本代表の様にしぶとく戦うチームが多かったと言える。

 

 

余談だが、9月の代表戦そしてドイツ戦まで引っ張る事になる、

なぜか思い出したように日本代表が4231を始めたのを見て嫌な予感がした。

 

そういや森保、夏は毎週マリノスを見に来ていたな…と。

 

 

 

アタッキングフットボールの火力と求められらる質

 

この優れたテンプレートを利用する事で、インスタントな、攻守にバランスが整ったチームが増える環境下でも、マリノスは前年同様のゴール期待値を計測するなど、環境の進歩を越える、進化があったと考えられる。

 

・上位2チームゴール期待値 21年→22年

 マリノス 1.876 → 1.849

 川崎 1.710 → 1.411

 

1試合平均の実得点が2.1→2.03得点 若干下がっているが、これはロペスとレオが、前田大然やオナイウほどのクオリティを発揮できなかったからと言える

 

 

そして、これに関して先日行われたワールドカップで確認された出来事として、以下のようなデータがあるらしい。

 

FIFA国際サッカー連盟の技術研究グループは前回の大会に比べてクロスボールからの得点が2倍近く増えたことを明らかにしました。 

 

www3.nhk.or.jp

 

日本もクロアチアにやられたが、マリノスは今期、より整備された守備組織を上回る方法として、エリア外からでも高精度なボールを蹴れる選手がいればゴールは生まれるという、新たな質的優位を見出したと考える。

 

例えば、川崎戦におけるマルコス→エウベルのゴール、鹿島戦におけるエウベル→西村、浦和戦の宮市→ロペス、磐田戦の仲川→レオ、鳥栖戦の松原→水沼…etc

 

 

G大阪戦ではこぼれを押し込んだ同点ゴールを含むと、エウベル水沼がお互いにアシスト&レシーバーになり2ゴールを生み出すなど両方出来る質を見せたし、

 

ゴールばかり注目されるが、仲川は3年連続6アシストを記録しており、宮市は僅か600分ちょっとの出場時間で3アシストを記録している。

 

日本で冬になると敵陣でスローインを取るだけでゴールを生み出すチームが話題になるが、持って運べるチームがもっと点を取るためには…

 

マリノスは22シーズン、スピードやドリブルだけでなく、同時に質の高いクロスを蹴る担い手を多く揃える事に成功していた。

 

話は逸れるが、ワールドカップで大活躍をした前田大然、セルティックではそれほど活躍していないようだ。確かにセルティックの環境で左ウイングなら、天野の方が活躍するのではないだろうか。

 

 

さて、他にも札幌戦で實藤の同点ゴールもクロス攻撃であるし、今期70ゴールの内、約10ゴールがエリア外&ペナルティスポットよりも後方から蹴られた、斜めのクロスボールで生み出されている。

 

このトレンドが続くのであれば、ウイングに求められる質として、スピードだけでなく、よいクロスを蹴れるのか、なおかつ自身も良いレシーバーになれるのか、が問われるし、当然中で受けるファーストトップ&セカンドトップにはシュートの質も含めたクロスに対する強さが重要になるだろう。

 

 

この様に、振り返ればプロセスとしては色々な事があったが、22シーズンのマリノスは、事前の準備、ネオスタンダードな戦力運用、環境の変化に対する対応と、勝つべくして勝った、シーズンを制したと言える。

 

勿論、旅の道中で落とし物と忘れ物がなかった訳ではない。

 

外国籍問題の歪が出たACLラウンド16、前線のクオリティ不足による最後のホーム連敗など、画竜点睛を欠いた部分もあるし、印象的な悔しいゲームも少なくないだろう。

 

 

さて来季は…という季節だが、仲川の移籍だけでなく、日本という条件により、得点王に続いてリーグMVPも翌年には居なくなる、マリノスだけではどうしようもない環境が存在する。

 

嘆いていても仕方がない。

毎年同じ話になるが、生態系において強いとは、最も環境に適応する事である。

 

予算、事業規模、最先端、世界的トレンド、Jリーグマリノスが強者でありたいのであれば、環境に適応するべく、サイクルを回し続けるしかない。今のサッカー界において、ビッグクラブと言われている所は、全てそれを怠らずにやり続けて長短はあるが歴史を築いた結果である。

 

今年、マリノスは見事にペダルを踏み抜き、漕ぎきった。

改めて、関わる全ての皆、よくやったおめでとう。

 

また、変化を楽しむという点においても、22シーズンは記憶に残る1年であった。

 

 

 

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ケヴィン・マスカットの手腕 横浜F・マリノスに見る戦力マネジメント

22シーズン、欺瞞に満ちた冬ワールドカップ開催による11月上旬に完全終了を目指す日程の圧縮、セントラル開催のACL出場が重なったマリノスは”最も過酷な開幕連戦”を消化した上で、リーグ前半戦1位、ACLグループリーグ首位通過を達成した。

 

ACL組が味わった開幕からの連戦はマリノスでも近年に無いほど主力選手に怪我人が続出し、他を見れば昨季2敗の川崎は既に4敗し、躍進が期待された浦和はドロー沼にハマり、昨季3位の神戸は早々にチームが瓦解するなど、体験したクラブにしか分からない過酷な物だったと言える。

 

その中でACL不出場組を抑えての前半戦リーグ1位は沢山の消化不良な想いを残す悔しいゲームがあったにせよ、マリノスというクラブの競争力の高さを示す重要なマイルストーンになったと言える。

 

 

「我々には2チーム分の戦力がある」

 

そんなセリフを言っても実際にはミナミーノの様に、明確なカップ戦要員がいるだけじゃないか、みたいな事も多い訳だが、過酷な環境だからこそ光る、前任者とは異なるマスカットの手腕とは。

 

 

 

特定選手依存度

 

個人に依存しない、誰が出てもやれる、理想の言葉。

でも本心というのは何を言うかではなく、何をやったかに現れる。

 

J1リーグの前半戦上位5クラブ(横浜FM、鹿島、川崎F、柏、広島)において、プレータイムを実際にどの様に所属選手でシェアしていたのか調べた。

 

 

17試合×90分= 1530分

 

この内70%にあたる1071分以上出場していた選手は各クラブ何人いるのか。

※GKは除外

※準 950~1070分出場選手

 

5位 広島 6人 準 4人 

4位 柏 7人 準 2人

3位 川崎F 6人 準 0人

2位 鹿島 7人 準 1人

 

1位 マリノス 2人 準 0人

 

マリノスがいかに理想を体現する選手のプレータイム分散を行っているのか伺い知れる。

 

 

依存度を深堀

 

また最多出場選手という点でみると、チーム内1位は岩田なのだが1218分と、80%に到達しておらず、他チームの外せない選手に比較した場合、依存度の低さが伺える。

 

 

例えば鹿島は安西が1525分、樋口1423分、常本1390分、上田1374分と90%オーバー選手が4人もいて(※17節を欠場した鈴木優磨1359分)、直近の失速も納得の数値。

 

川崎Fも山根1530分、谷口1430分と代表ゲームを抱える2人の負担は秋以降も下がりそうになく、橘田1318分と昨年デビューのルーキーが最早欠かせない存在なのが分かる。

 

柏もDFライン3人とマテウスヴィオが1400分(大南1399分)、広島は荒木&佐々木が1440分、快速ウインガーの藤井も1399分と90%オーバーの選手を抱える。

 

 

この点、マリノス岩田以外に1000分以上出場した選手は小池龍一人のみで、900分以上で見ても、喜田919分、永戸904分の2人しかおらず、なんと800分以上で見ても松原、Aロペスの2人と、プレータイムを抱える戦力でフルに分散しているのが伺える。

 

勿論、その中にはマルコス562分、エウベル693分の様に、本来はもっと使いたかった攻撃の中心となる選手が含まれる等、例え軽症であっても、負傷をした選手が戻ってくる時間がないという連戦の過酷さが伺える。

 

700分台には西村、仲川、水沼、ジョエル、角田、エドゥアルド、600分台にはレオ、渡辺、畠中と他チームであれば出場時間90%もあり得る、依存されてもおかしくない実力を持つ選手が並ぶ。

 

現在のマリノスで唯一、依存度が高い、居ないとチームとして大変な事を覚悟しなければならない選手は高丘くらいとプレータイムから言える。

 

 

 

ケビン・マスカットの手腕

 

2021年、ポステコグルーから彼に変わって、チームに何がもたらされるのか、ということを多くの人が気にしていたテーマではないだろうか。

 

ポステコグルーはクラブにピッチ上で優位性をもたらしたが、2019年と現在においてマリノスを取り巻く環境は激変している。

 

複数タイトルを目指すべきチームである自覚し、サッカーというスポーツの転換(90分5人交代制)に対する適応、立ちはだかる混乱を含んだ過密日程、マスカットの取り組むべき課題はポステコグルーよりも難解だ。

 

2019年、ポステコグルーがリーグを制した時、仲川、マルコス、喜田、畠中、チアゴは90%水準の依存度(シーズン2700分)であった。

 

 

ここまでのリーグ戦において、2022マリノスの特徴はアタッキングフットボール…ではなく、それはブレずに、更に一歩先に進み、全てを勝ち取る事を目指した、誰が出てもチームとしてやりたい事をやれるという、理想の戦力運営と言える。

 

 

夏以降の日程を見据えて

 

今季の『日程くん』はシックスセンスを失ったのかもしれない。

 

何しろマリノスはこれから8月7日までに、現在上位にいる柏、広島、鹿島、川崎Fとの今季2度目の対戦を終える。

 

J2でもここから数週で首位新潟が2週目の首位攻防戦を終えるなど、終盤の神がかった展開は無さそうである。(フラグ)

 

マリノスにとってリーグだけを見れば、ACLが終わる夏以降に過密さは存在せず、むしろここまで分散してきたプレータイムを1試合に集結させるような収穫の秋を迎えるのだが、ルヴァン、そして天皇杯も見据えるなら話が変わる。

 

 

レオ、ロペス、更に西村と十分に見えるが、全部欲しいなら、8月はルヴァン→リーグの4連戦から、ACLは中2日の3連戦であるし、9月も天皇杯とルヴァンが残っていれば7日から25日で6試合消化の連戦となる。

 

 

また今季はマルコスが怪我がちで、吉尾では代役の目処が立たない中、西村はむしろセカンドトップを主戦場としており、

 

これだけプレータイム分散をする中、カップ戦ですら出番がないのでは3番手のファーストトップは居ないも同然であり、ここにマスカットが信頼してプレータイムを与えられる選手を揃える必要性があるかもしれない。

 

信頼はプレータイムに現れる。

 

 

 

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横浜F・マリノス 来期2022シーズンの”希望観測的”編成を考える

残念ながら、2021シーズンのマリノスは2つのトーナメントでは早々に敗退してしまい(勝負の時期に何が代表招集じゃ、おのれ森保)、リーグでは監督引き抜きなどもあり異次元の領域までは至ること無く、覇権奪還はならず。

 

 

前回は横浜F・マリノスが2021シーズンをどの様に戦ったのか、成果として残された物=統計的数値をベースにまとめた。

 

speir-s.hatenablog.jp

 

今回は、残された数値という現実をベースに、編成面から希望観測的な改善点を考えてみた。

 

なお、他チーム選手の獲得については実現性を考慮はしつつも、基本的には好き放題言ってるだけである。あしからず

 

 

 

前田の代わりは

 

基本的に並びは変わらないものとして考える。

 

次に既知の情報として、前田大然は欧州に行くべき状態の選手になってしまったとして、絶対に一人は取らなければならない。

 

その際に、異次元の走力は代替不能として考えるしか無く、前田と同じ強みを持っている選手では数歩及ばない半端な補充になってしまうのだから、異なる強みを持つ選手を狙いたい。

 

 

早速、降格クラブのフリー案件という好条件な選手獲得に関するニュースが出ているが、実現した場合、スタッツから見える選手の能力と、獲得の意図はどのようなものだろうか。

 

news.yahoo.co.jp

 

キャリアのハイライトは2018年。

 

主に前線中央で使われ、通算1542分プレー、シュート本数53本、11ゴール、成功率は20.8%。大分で、J1のキャリアを築いていたオナイウと似た数値と言える。

 

そこから2シーズン、転売を目論んだ海外の移籍先クラブでは商品価値を上げる結果にはならず、残念な2年を過ごした後、昨シーズンに仙台へ帰還。

 

余談だが、前田もあれだけの能力を持ちながら1年を無駄にしていたことを考えると、良い選手を創り出して行こうのプロセスにおいて、とにかくヨーロッパへ行けばいいという、島国根性全開な無計画な移籍を、日本サッカー界全体で再考する時期に来ているのではないだろうか。

 

国内の有望な若者は欧州に行く前に、先ずシティグループの一員であるマリノスに行くのがいいだろう。

 

 

で、マリノスへの適合という面で、皆が気になるのは走力の部分だが、2021シーズンで直近の90分フルタイム出場したゲームを見てみると、総走行距離が3試合連続でチーム1位(前線でも11kmオーバーに達するタイプ)、スプリント数も前田ほどではないが高い数値を記録しており(20回を越えてくる)、突出した武器とまではいかないが、ハードワークをこなせるかという点で問題は見受けられない。

 

 

そもそも、降格が差し迫った終盤戦では何故か先発を外れる試合が多く、途中出場が続いているのが分からない。仙台にそんな余裕があるとも思えず、怪我等でなければ一体何なのだろう。追放されたマルティノスのように監督へ”意見”を言ってしまったのだろうか。

 

もしかすると、契約延長を拒否したことによる影響かもしれない「お前さては、ここで死ぬ気がねぇな?」信用ならねぇ、みたいな。



それはさておき、では果たして前田の代わりなのか、オナイウの代わりなのか、それが気になる所と言える。

 

具体的に言えば(ファーストトップも出来る)右サイド攻撃のフィニッシャーとなる左ウイングか、それとも(レオと競う)ファーストトップなのか、後者だと杉本はレンタルバックが確定だろう。

 

保有戦力という点で見ると前者の方が充足感があるが、前回のシーズンレビューで触れた左サイド問題が再燃する。

 

 

 

左サイド問題とACLの編成

 

右が矛として機能したのと比べると、左は右と同じくらい機会があったのに、チャンスメイク率、ひいてはゴールの効率が悪いという点で、機能していなかった。

 

これはビルドアップの問題ではなく、敵陣アタッキングゾーンでの問題である事を示すように、フットボールラボにおける左サイド攻撃の指数は、高い順で以下になっている

 

マリノス 77  川崎 69.9  FC東京 58.3

 

他チームと比較すれば、いかに右と同じくらい突出して敵陣左サイド深くでプレー機会があったのか分かる。右で崩す為に左を使っていた…なんて数値じゃない。ちなみに右サイドは82。

 

 

プレー機会は多数あったのに、シュートまでいけない。それと比例するように左サイド攻撃からのゴール率は 2019年2.0% 2020年1.4% 2021年0.6% と、皆さんの印象通りに年々と下落の一途を辿っている。

 

シュート率16.3%(リーグ1位)ゴール率2.1%(リーグ3位)の右と比べれば貧果は顕著だ。繰り返すが、構造として左サイドから攻撃をしていない訳ではない。

 

この差をより具体的に説明すると、100回攻撃した場合に、左サイドから1得点が生まれる確率は45%、右サイドは88%と、約倍の差が生まれていることになる。

 

 

ここで入れ替えの妙により、西村が前田のようにゴールを決め、エウベルのようにチャンスメイクしてくれれば理想だが、現実的にはシュートに至る過程として、見えつつある左右非対称の構造を受け入れて、完成させていく方向が堅実なのではないだろうか。

 

勿論、実は西村がオナイウの補填で、左にもエウベル水準のブラジル人選手を用意する可能性もある。ただ、外国籍の枠が3人から拡大の動きが見えているが、マルコス、チアゴ、エウベルが外せない上に、レオが1番手になる中で”ACLはどうすんねん問題”が残る。

 

だから金銭的折り合いは必須として、杉本は残す確率が高いかもしれない。

 

 

 

ボランチ

 

新たなサイクルの始動。

 

news.yahoo.co.jp

 

変革期真っ只中のマリノスに来て、チームと共にキャリアを再生させた扇原だが、マリノスではとても払えない値札が付いたのなら、諦める必要があるかもしれない。

 

もっとも、インに対してアウトも多いマリノスでは、ポステコグルー監督の就任以降、多くの選手が去っていったが、未だに補填が効かず、穴が埋まらないと懐かしむ選手はマテウスと遠藤渓太の左ウイングユニットくらいではないだろうか。

 

さぁ仕事の時間だ。

 

 

どうしても左利きにこだわるのであれば、J1でのキャリアなど条件を含め、希少性も高く、穴を埋めるのは簡単ではない上に、そもそも喜田、渡辺皓太、畠中の復帰を機に岩田を一列戻すとしても、枚数も足りず ”勝ち点80を目指す水準で” 早急な対応が求められる。

 

實藤や角田よりも岩田を使い続けたように、センターバックボランチは畠中が戻っても、ギリギリの戦力である。

 

 

この点で扇原と、長いパスを蹴れる特徴を含めて、スタッツの類似する札幌の高峰などは分かりやすい代替手段ではある。

 

ボランチは90分出るとなれば、全局面に関与するべく、チームで最多走行距離が求められるマリノスのスキームにおいては活動範囲=カバー範囲の部分で若干の不安を残す。

 

強みとしては、扇原と比較した場合にデュエル回数&勝率、ドリブル回数&成功率などに優位性があり、喜田と渡辺、扇原の特徴をコンプリートするポテンシャルを感じさせる選手ではある。

 

 

だが個人的には、今オフに、いかなる手段を用いても手に入れるべき選手がいると考えており、既報通りに、その予算が神戸から獲得出来るのであれば、格好の機会だと言える。

 

センターバック、右サイドバックが可能な岩田にボランチをチャレンジさせているように、センター&左サイドバックとしてプレーしている、柏レイソル古賀太陽にマリノスボランチを挑戦させたら化けるポテンシャルを感じる。

 

角田をどこまで、どのレベルの大会で、何分プレーさせる事が出来ると考えているかにもよるが、連戦の中で畠中を壊してしまった同じ轍を踏む訳にはいかない中で、古賀はプロ選手として十分なキャリアを持ち、蹴れる&持てるセンターバックとしてもプレー可能だ。

 

特徴として、たまに”やらかす”のは昨年までの畠中を彷彿とする。

 

 

……この様に、最終ラインとしても一定の計算ができる能力もあるが、マリノスでは一列前、よりボールをプレーする機会を与えたら、と期待できる選手であり、個人的に3シーズン注目した観点から、安くはないとしても、投資に値する選手と考える。

 

 

この背景として、カレンダーを考慮すれば、2022シーズンはリーグだけでなく、W杯アジア最終予選は勿論、ACL、ルヴァン、天皇杯、そして11月21日にはワールドカップ開幕を控えており、再びとてつもない過密日程が待っている中で、複数ポジションでプレーできる選手の重要性は高まるだろう。

 

リーグ戦はおろか、ACL、ルヴァンと天皇杯も『11月上旬には終わってないといけない』

この前提が共有されなければならない。

 

天皇杯は12月中旬以降にベスト8以降を開催すればと思ったが、田島が11月までに終わらせる宣言をしたので、誰も逆らえないのだろう。

 

その結果、もしかしたらルヴァンとリーグ戦の残りを12月中~下旬にやる日程もあるのかもしれない。まぁ11月までに詰め込むだろうし、それは2試合の為に1ヶ月半休むか?みたいな。

 

 

なお、古賀は右利きらしいが左利きと言われても分からない位、両利きの選手である。

 

古賀 太陽 23歳 182cm/76kg J1通算 6660分 J2通算 5015分

2021 37試合 先発フル出場 3325分 CB 28 LSB 8 RLB 1

 

「もっとボールをプレーしたくないか?」

「王者を目指すチームでステップアップする時期に来ているのでは?」

 

 

 

デトネイター(起爆剤)とマルコス

 

そもそも、ここ2年、左ウイングに入って上手くいく選手がいない。攻撃効率を示すデータでも、その傾向が年々と強くなっているのは前段の通りで、2019年時点ではリーグ最高峰だった戦力を失った補填を、今シーズンこそ解決しなければならない。

 

その中で前田は、新たな解決方法として、上手く行っている右サイドアタックに強く関与する事で、ゴールという結果を残し、左の損失を穴埋めしたと言えるのかもしれない。この点で代わりとなる選手も、その構造を引き継ぐのがスムーズだとしても、機会自体は多いのだから、改善が必要とされているのは明白だ。

 

 

先ず注目したいのは現有戦力の活用として、右サイドのデトネイター(起爆剤)として昨シーズンよりも短い時間でアシストを量産した水沼の活躍だ。

 

プレータイムがゴールに直結している事から、右サイドの攻撃効率上昇に最も寄与している選手と言える。

 

昨年の1109分で10アシストも驚異的だったが、2021シーズンは667分で9アシストと、正に2021シーズンはマリノスが”クラブの規模”を敵に押し付ける、5人交代制を使いこなした象徴と言って良い活躍を見せた。

 

 

また、仲川も、ゴールこそ少ないが6アシストしており、マリノスのファーストトップが、動くべき動きをすれば多数のシュート機会を得られるのと同様に、ウイングも多数のクロス機会を得られると言える。

 

つまり、右と同じ様に、左にも質の高いクロスを蹴れる事を最優先とする選手を用意すれば、J1最高効率の水沼と、同様の活躍が期待できるのではないだろうか。

 

 

この点において、今のJリーグ全体を見渡してもトップ5に入るのが天野だろう。水沼と比較してもドリブルという強みがあり、よりスペースの少ない、クロスを蹴る選手にオープンな状況が作れない状況にも強い。

 

2021シーズンではマルコスとプレータイムを共有する事が多かったが、上手くいかない試合では、いっその事、天野を左にして前田とレオの2トップにしてくれ、と何度思っただろうか。

 

 

ともかく、5人交代制で猛威を奮った効果は既に実証済みなのだから、自然とクロスを蹴る機会が回ってくる場所に最高の質を配備する、この水沼的ウイング運用は左でも試す価値が十分にあるのではないだろうか。何しろ現状は下落の一途なのだから。

 

去就は不明だが、ドリブル、デュエル、クロスという特徴なら、天野でなくティーラトンという選択肢もあるかもしれない。

 

 

実際の運用を想定しても、試合途中の交代において、2トップにはせず、左ウイングとマルコスの2枚替えを行うとして、味方とリンクし、橋頭堡となるスペースを探し、敵陣にスルーパスを打ち込んでいく、マルコスを代替するという意味では、山田康太の方が適任だ。

 

天野が入ることでサイド一辺倒になりがちに(それが効く時もあっただろうが)なってしまうことを防げるし、マルコスの役割を残しつつ、天野には左サイドで特別な質を発揮してもらえれば一石二鳥とも言える。

 

 

山田の特徴として、マルコスが弱さを見せる、敵が背後にいる状況でボールを守るプレー、更にはターンからのドリブルが強み。弱点はシュート成功率だけど、その点は天野も変わらないので、2番手を山田にしてもマイナスでもない。

 

右の水沼、左の天野、リーグでクロスを最も蹴るチームにおいて、左右に配備される最強クロサー。今季、残り15分で最も得点を決めたチームであるが、同時に得点を生み出せずに競り負けた悔しいゲームもいくつかあった。

 

更に来期はいかなる撤退守備をも、上から引き潰すような質を手に入れたい。

 

 

 

サイドバック

 

構造の話になってくる。

 

西村を前田の代わりに考える、もしくはエウベルを左担当に回すにしろ、ティーラトンとの相性が悪い問題を無視できない状態になってきた。

 

何しろ、誰がウイングに入っても、左サイドから一定の時間をかけたプレーでは、年々とゴール率が急速に下落しているのが事実である。

 

 

和田は複数ポジションにおける3番手に必要だとして、2番手、又はレギュラーを争う選手が居ない状況は改善する必要がある、という動きなのだろうか。

 

news.yahoo.co.jp

 

現時点では、鹿島でプレーしている事からも、各種数値はオーソドックスなサイドバックであり、左サイドにも、ボールを一定時間持ちたがる選手ではなく、ランに特徴を持つ小池のようなタイプを用意する意図があるのではないだろうか。小池ほど特別に速いかは別として。

 

 

ティーラトンを入れ替えるのか、それとも競わせるのかは不明だが、入れ替えとなればもう1人が必要と、大幅な入れ替えが行われる事になるし、それ位の事を行っても驚きは無いセクションと言える。

 

前田が作り出した構造の継承をチューニングするとして、ウイングではない、セカンドトップ的な選手を入れる左右非対称を洗練していくのであれば、ウイングバック的なスピードを武器とする、ライン際が好きなサイドバックを必要とするかもしれない。

 

ニッチ(適所)、キャラクターに応じた住み分けとして、例えば左から行くときはボランチセンターバックに降りて3枚で、ライン際で幅を取るのはサイドバック、という構造もあり得るし、この時、ボランチに左で蹴れるセンターバック適性もある選手がいるとスムーズにいくだろう。

 

 

勝ちしか許されないという状況で迎えた終盤戦、下位チーム相手にもビルドアップで大きな問題を残しているのが如実に現れた試合がいくつもあった。

 

2021シーズン、標榜するアタッキングフットボールで守備の安定性を高めることに成功したバージョン3.0と言える現行モデルを、更に3.1、3.2と改善していく必要性があるのは間違いない。

 

その上で、構造の鍵を握ることになる、左サイドバックの編成は注目点になるだろう。

 

 

 

レオはマリノスの仕組みで機会を得なければならない

 

 

オナイウが12ゴール、そして夏以降に、その代役となったレオが10ゴールで、杉本が3ゴール、通年レギュラーだった前田が23ゴールで得点王になった事を思えば、一見、十分に見える。

 

だが、レオのシュート成功率は15%に届いておらず、5アシストという補填はあるにせよ、マリノスのアタッカーとしては物足りない物だったのは間違いない。

 

近年、マリノスのファーストトップとしては歴代最低の数値を記録してしまった訳だが、詳細を見ると、問題の本質が見えてくる。

 

 

① ゴールに対するビッグチャンスミス数を見ると、実の所、レオは決定機のミスが少ない。(by sofascore)

 

前田 23G-15ミス オナイウ 12G-6ミス レオ 10G-2ミス

 

余談だが、エウベルのビッグチャンスクリエイト(決定機作ったけど味方が決めなかった)は16もあり、別に前田一人でもないだろうが、単純に彼が3分の1でも決めていれば、単独で得点王だったし、エウベルも優秀選手にも選ばれただろう。

 

前田、セルティックに行くよりも、まだマリノスでやるべき事があるのでは?

 

 

 

② 1本あたりのシュート期待値が特に低い

 

選手が稼いだシーズントータルのゴール期待値は加算方式なので、シュートを打てば打つほど増える物だが、前田が97本で18.286なのに対して、レオは68本で6.888しかない。

 

これを分かりやすく、1本辺りに換算すると、前田 0.1885 レオ 0.1012 とレオは期待値の低いシュートが多いと言える。

 

 

レオの1本辺りの数値はシーズンのゴール期待値上位20位までに入った選手の中で、古橋と並んでぶっちぎりに低い物だった。ミドルシュートを打ちたがる傾向が出ているのかもしれない。

 

その逆となる例として、オナイウは1本辺り0.2014 と前田より高く、エジガル(0.1937)を越えた。正にマリノス(アタッキングフットボール)のフレームに最も適合したファーストトップと言える。

 

単純計算で言うと、統計的にオナイウはシュート5本で1点になるが、レオは10本も必要になる、ということで、いかに決まる可能性が低いシュートが多いか分かるだろう。

 

ちなみに昨年、夏場の緊急補強だったジュニオールサントスですら、シュート1本辺り0.1390とレオよりも遥かに高く、7本で1点になる。

 

 

レオに得意の形、これまでのキャリアでゴールを重ねてきた経験があるにせよ『マリノスのファーストトップ』を習得することで、これまでとは異なるイージーショットが増えることを理解して貰いたい所。

 

仮にレオが1本平均0.190のシュートを50本打てればゴール期待値は9.5になり、今シーズンよりも3点近く向上することになる。イージーショットが増えれば差分も大きくなる為、15得点程度が可能だった筈だ。

 

 

オナイウは前年、9.1%に過ぎないシュート成功率だったが、今季は25.5%まで劇的に上昇したように、既に出来るはずの選手を獲得しているのがマリノスである。

 

新しく加入したファーストトップにとって必要なのは、能力の向上ではなく、マリノスのスキームにおける最適解の理解だと言える。

 

直ぐに適応したエジガルやエリキの様な怪物に慣れすぎてしまっているので、物足りなく感じるが、半年近くチームに合流出来ず、キャンプも経験できない中で、1年目はオナイウや前田よりも機能したと言え、可能性以上にゴールを生み出す能力があり、レオはまだまだ改善の余地を大きく残している選手だと言える。

 

 

 

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横浜F・マリノス かく戦えり 2021シーズンを統計的に振り返る

横浜F・マリノスは2021シーズンをどの様に戦ったのか。

そこに見られる変化は、監督の評価は、各選手の活躍ぶりは、どの様な物だったのか。

 

フットボールラボのデータを元にまとめた

 

 

大幅な改善が見受けられたのは守備

 

1試合平均0.9失点は、昨年の1.6失点と比較すれば、2021シーズンの最も顕著な変化と言える。堅守のマリノス復活と言ってもいい。

 

それに直結する数値として、被シュートが1試合平均12.7本→10.5本と優勝した2019シーズンを越えた。

 

また、実際に打たれた被シュートの成功率も13%→8.8%と、敵チームは決めるのが難しいシュート、確率が低いシュートを打たされている傾向が見えた。

 

順に並べてみると、敵チームの攻撃機会が減り、次にシュート機会も減少し、その成功率も低いものになった。

 

その被シュート成功率の低下に関してはマリノスの守備エラー、鹿島戦でだけは何度もあったような出来事、個人ミスや、エキセントリックな対応をした結果に発露するオフサイドトラップの失敗から起きる、敵のイージーショットが無くなった事があげられるだろう。

 

そして、優秀選手賞に選ばれないのが最も不思議な選手として思い出される、高丘陽平がもたらした安定とビッグセーブに、10年戦える確信を持てた人も多いだろう。

 

 

一方で、これまでマリノスにおいて、良い守備のバロメーターとなっていた数値は軒並み下がっている。

 

ハイプレス指数 52(成功率50.3%) → 44(成功率53.8%)

最終ライン指数 81 → 61

攻撃→守備の走行距離における敵チームとの優位性 74 → 54

コンパクトネス 47 → 40(非プレス時における守備陣形の面積 ※広くなっている)

 

 

これは以前にも記事にまとめた通り、優勝した2019モデルとは根本的な構造が変わったと言える。マリノスのデザインはバージョンアップがなされた2021モデルになった。

 

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最終節のように、地上戦に限定された川崎の様な相手であれば、むしろ相性は良いが、GKを交えたビルドアップの理論が普及した事、更にそれと組み合わせた、ボールロストよりもマリノスのハイ(敵陣)プレスでショートカウンターを喰らわないリスクヘッジであり、最も簡単な回避方法として、ロングボール戦術を用意してくるチームが増えた。

 

マリノス戦だけは『これをやりきろう』と決めてくる相手との対戦において、理想としてハイテンポで殴り続けたいとしても、総合的に見れば、より効率的にアタッキングフットボールをする上で、我慢が必要になった。

 

 

その点で言えば、GKからのビルドアップに対して、見えてる地雷を踏みに行かずに、黙々とサンペール-イニエスタを消し続けて耐えた神戸戦などはそれの究極的なゲームであったし、ロングボールを散々蹴られ続けても危険なシーンは一つもなかった。

 

まぁ自分達のボール保持がボロボロ過ぎて、自陣ロストの連発となり、低い位置で守る時間が必然的に増加してしまい、シュートは多数打たれたのだが、それは札幌、湘南、J1史上初、20位という最下位で降格したチームなどの対戦でも見えてきたビルドアップの問題であって、そちらも、さらなるバージョンアップが求められると言える。

 

 

 

監督交代

 

シーズン途中に、マリノスという特殊なチームに就任するのは簡単な事じゃない。マスカットは継承者としての役割を十二分に果たしたと言える。

 

一方で、難しさも多く見えた。

 

2021モデルというバージョンアップ、変化は間違いなくあったとして、だからこそ鹿島戦の1失点目は一体何だったのか不思議で仕方ない。誰も近寄りもしない完全オープンなGKに対して、ディフェンスラインはハーフラインに位置し、裏に蹴られるやディフェンスラインは後方に走りながら対応して、あのゲームの方向性が決まるミスが発生。

 

内情は不明だが、外から見るだけの感想として、首位川崎を猛追していた高揚感に飲まれていたとしか思えない。

 

バージョンアップの指標として上げた項目においても、最終的には以前に記事を書いた時とほぼ同じ数値に落ち着いたが、8月後半のゲームから、つまり勝点を落とし続けた時期において、改善を見せていた各項目が裏面に反転する勢いで、2020シーズンの様な数値になっていた。

 

 

これにはいくつかの試合でセットプレーから先制点を早々に献上した事で、逆転への焦燥感を抱えたプレータイムが多くなってしまった、という展開の妙もあるかもしれない。

 

だが、そもそも21試合が終わった時点では5失点しかなかったセットプレーからの失点が、それからの17試合で7失点と、終盤戦に1点が重い試合が続く、勝利しか許されない状況において、かなりのブレーキになったのは間違いない。

 

 

より直接的な監督の裁量という点で見ると、連続する中2日の日程において、前2試合で続けて終盤に足がつり、直近試合では最後の数分プレー不可能だった畠中の先発起用も含めて、8月末の鹿島戦は大きなターニングポイントとなるゲームだったと言える。

 

渡辺皓太の退場を招いたリスク管理など、戦力が均衡したリーグで、高いレベルにおける経験の少なさを思わせる場面も見受けられた。

 

 

また、下位チームとの対戦が続いた夏場など、一時期は上手く行った事もあったが、より苦しいゲームではユニットの関係性、補完性を考慮しない結果、闇雲に見える選手交代で明らかなパワーダウンを招くなど、やはりシーズン中の監督交代はダメージが皆無とはいかなかった。

 

所有戦力を掌握、熟知した指揮官の強みという文脈において、優勝チームも戦力という点では夏に大きな痛手を負ったはずだが、個々の特徴を含めたチーム戦力を知り尽くした事による戦力の運用という点で、一日の長を見せられたと言える。

 

 

 

最強の右サイドアタック

 

矛盾という言葉があるが、Jリーグにおける矛という点ではマリノスの右サイドが上げられるだろう。

 

比較として、マリノスの左サイドアタックを見ると、シュート率12.9%(リーグ9位)ゴール率0.7%(リーグ15位)と奮わない数値を記録。

 

一方で右サイドはシュート率16.7%(リーグ1位)ゴール率2.2%(リーグ3位)、右アタッキングエリアにおけるプレー機会も他チームとの比較において突出しており、リーグ最多得点チームにおける主武器と言える。

 

右サイド攻撃指数、1位マリノス81.8 2位広島60.2  川崎53.3

 

 

攻撃関与の項目を見るとラストパス機会はエウベル、小池が並び、メインシューターは前田と、右サイドからの攻撃が機能したからこそ、左の前田が中でプレー出来る機会が増えた結果、ゴールを多数生み出せる構図が生まれたのが分かる。

 

また、水沼、仲川など、プレー時間(機会)の限られた二人も、それぞれ9アシスト、6アシストを記録している様に、一定以上のクオリティを持つ選手が入れば機能する構造が出来上がっていたと言える。特に水沼のプレー時間辺りのアシスト数はサカつくなら神の領域と言える。

 

 

 

中央と左

 

リーグ最多得点のチームなのだから、全般的に攻撃は上手く行ったと言える。

 

例えばマルコスは得意の左足ショットが尽く僅かに逸れた事で総ゴール数は若干減って9ゴールだったが、一方で5アシストを記録しており、いわゆる通れば一撃の勝負パスも多く、敵も一番警戒するエリアで機会こそ少ないが、中央攻撃をする上で欠かせないキーマンなのは変わらない。

 

サイドが他よりも突出して多すぎるだけで、中央攻撃の機会もリーグ4位、そしてクオリティという点で見れば中央攻撃のゴール率6.3%はリーグ1位であるし、そのエリアから最もラストパスを送ったのはマルコスである。

 

 

問題は右サイドと微差くらいにプレー機会があったのに、ゴールはおろかシュート数も奮わなかった左サイドからの攻撃と言える。

 

何しろ最もシュートを放ったのが、残念ながらアタッカーの中ではシュート成功率が一番低いエウベルであるし、そして最もラストパスを蹴ったのが前田となっている。

 

あえて単純化して言えば、ラストパスを蹴るのが前田で、シュートを打つのがエウベルだと、この貧果も納得の数字と言える。ちなみに左サイド攻撃から生まれたエウベルのゴールはゼロとなっている。

 

※補足 清水戦の前半3分において、左サイドをスルーパスで抜け出した前田→エウベルで1ゴールあるが、アタッキングゾーン左で行われたプレーは前田のクロスのみなので、連続したプレーを要件とする左サイドアタックとしては集計されていない。

 

 

つまりこれは、左サイドからの攻撃ではクロス、シューター共に、オープンな状況が必要だったと言える。

 

オープンになるのであれば右だろうと左だろうとマリノスのアタッカーなら高いクオリティを発揮できるのは自明の理であるが、オープンにならない状況でどう打開するのかがマリノスにとってはメインテーマであり、左からの攻撃ではスペースを消されるとスタックしてしまった、とも言える。

 

 

更に、ほとんど右でプレーした小池が左でもラストパス機会4位なのと比較すると、ティーラトンは前年3位だったが、2021では5位にすら入っていない。前田がいなくなる事も想定されるだけでなく、改善の必要性を最も感じるセクションと言える。

 

エウベルの左起用など、他のアタッカーとの兼ね合いを考慮すれば、左サイドにも小池のようなリーグ水準以上の機動力を持つサイドバックを用意するなど、編成面においても最重要項目かもしれない。ティーラトンの入れ替えもあり得る。

 

例えば現有戦力の活用という点では、岩田に複数ポジションを求めるように、宮市は僅かながらドイツで経験したことを思い出してもらい、サイドバック起用もありなのかもしれない。

 

低調なことはクラブも既に把握しているだろうから、大きなシャッフルを予感させる。

 

 

 

新たなサイクルを望む

 

これほど1年前が遠く感じるシーズンは無かったのかもしれない。

 

2020年の12月7日はまだカタールにいて、アジアの頂点を目指しACLを戦っていた。

 

マリノスは残念ながらベスト16において、昨年チームの限界を示すような完敗を喫し、彼の地を後にしたのだが、もし勝ち上がっていたら決勝戦と同日に予定されていた、『絶対に変更はしない』と明言されていたJ1リーグ最終節は一体どうなるのか。

 

幻となった、ACL勝戦J1リーグ終戦の同時開催は2020年12月19日、そんな心配も遠い昔に感じる。

 

 

その後、シーズンオフに入ったマリノスは手堅く戦力を維持したかに思えたが、エリキを中国にかっさらわれ、やや緊急感をもって新加入となったレオであったが、コロナの影響でいつ合流できるのか不明のままシーズンインを迎え、エウベルも怪我等があり、開幕戦は高卒ルーキーの樺山がスタメンを飾るも結果は出ず、低調なシーズンインとなり、若干の不安を抱えていた時期も懐かしい。

 

余談だが、樺山は夏にプレー機会を求めて山形に移ったが、高卒新人としては十分であるが、エウベルが水準となるマリノスのアタッカーとしてはゴールを生み出す質までは見せられていなかった。

 

 

そんな今シーズンの入りについて、様々な事情から若干の出遅れ感があったのは間違いがないだろう。もっとも近年のマリノスは戦力編成においてはスクラップ&ビルドを繰り返しており、離陸体制が整う助走期間が必要なのは毎年恒例の感すらある。

 

だがこれは横浜F・マリノスが高いレベルを維持し続ける上で必要な事であり、それなりの金額を貰えれば欧州に選手を送り出してしまうやり方も含めて、昨今の情勢を見据えた結果、戦略として正しいと言える。

 

 

だからこそ野心のある選手が、得体のしれない転売屋よりも、マリノスを選ぶ状況が生まれる。

 

マリノスでゴールを量産する事よりも、辺境や周辺リーグに行くことは選手キャリアにおいて、ステップアップにつながるのか!?

 

選手市場という観点でみた時に、日本という生態系においてはマリノスはどちらかといえば買う側だが、より大きなスケールで見た時、その上にヨーロッパという規模が異なる市場がある限り、望まざるともJリーグのクラブは何処まで行っても、有望な若手をできるだけ高く売る育成クラブでしかない。

 

エースが中国に、フランスに、更にはまさかの監督に続いて、冬になれば当たり前の様にトップスコアラーも欧州に出ていく。一部の瀬戸内海方面では、怪物級の能力を持つ選手を使いこなせなかったチームもあるようだが、近年のマリノスはエース生産工場の様相をみせる。

 

入れ替えによる再整備に伴う、再起動のウェイティングタイムが若干発生するとしても、恐れずに踏み込んでいく。

 

そのサイクルを回す力こそが、優勝争いをし続ける力になり、継続された先にビッグクラブ、勝者のメンタリティ、常勝というワードが後から付いてくる事になる。

 

リーグ戦において10年の間、1度も最多ポイントになっていないチームは、最早常勝というワードが相応しいとは思わない。

 

 

特定の環境下で生き残るのは強い生物ではなく、適応した生物である。

 

 

 

P.S

最近はTwitterスペース機能で、マリノス試合後雑談など好き放題話す、とかもやってます。

ある程度、情報が出揃ったら来シーズンを語る、とかもやりたいですね。

 

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