前回の記事で説明したように、今季のマリノスにとって至上命題は守備の再建ではなく『攻撃効率の向上』に他ならない。
マリノスが、この問題を解決する上で重要な1テーマになるのが、自陣でのボール保持状態からの攻撃、いわゆる自陣ポゼッション攻撃となる。
チームが勝利を掴む哲学として、より多くのゴール(得点)を求める為には、より多くの得点機会(シュート数)が必要で、そのベースとなる攻撃(アタッキングエリア侵入)回数を増加させる為に、母数として、より多くボールを持たなければならない、と考えており、攻撃権を捨てる選択肢は存在しない。
昨年のスポーツダイレクターによる指針方針演説
2018 横浜F・マリノス 新体制発表会【フルVer.】 - YouTube
一方で、攻撃権の放棄が選択肢に無い事を計算に入れた対戦相手により、自陣でのボールロストからショートカウンターを狙われやすい、という、攻撃の失敗だけに終わらない問題が発生している。
この点について、以下のような指摘もある。
「蹴れないポジショナルプレー」は怖くない
湘南が証明「ストーミング」の脅威。「ポジショナルプレー」横浜FMの課題 | footballista
※ ツッコミを入れると、ポジショナルプレーという思想自体には、攻撃権を放棄しない概念は含まれないのだから、正確には、『蹴れないポゼッション絶対主義は怖くない』ではなかろうか。
ここで、サッカー的な考え方ではなく、DAZNのおかげで久しぶりにスーパーボウル以外のシーズンゲームもライブ放送で数試合見た、アメリカンフットボール的に、自陣ポゼッション攻撃の改善を、なぜロングパス攻撃が有効なのか(蹴るべきなのか)、を説明したい。
マリノスにおける自陣ポゼッション攻撃
先ず、昨年を振り返ると、それら指標において、ボール保持時間、アタッキングエリア侵入回数、さらに補足的なクロス回数、CK回数などにおいて、リーグ1位の数値を残している。
一方で、より重要な指標、正にマリノスが目指すサッカーにおけるKPI(重要度達成指標)と言えるシュート数はリーグ4位、チャンス構築率は7位と、明らかに効率性の低さが浮き彫りになった。
これを解消する上で、極めて大きなウェイトを占めるのが、Jリーグラボの指数において、敵陣56%、自陣70と極端に後傾した事が分かる、ボール保持(ポゼッション)状態にある。
Jリーグで最も完成されたポゼッション至上主義のスタイルを見せた2016年の浦和レッズですら、敵陣59% 自陣65%と前後の指数差は僅か6ポイントだったのだから、14ポイントも開きがあったマリノスは如何に後傾だったのか分かる。
※数字はボール保持率ではなく、Jリーグラボにおける指数
一方で、例えば、リーグを2連覇した川崎は、実の所はショートカウンターを最大武器とする、保持の質は高いが、保持している時間そのものには固執しない、結果としてボール支配率が高くなるスタイルであり、敵陣ポゼッション指数が圧倒的に高い前傾型である。
敵陣79% 自陣55%
もちろん、攻撃権の意図的な放棄を嫌い、ボール保持時間に固執していても前傾型になるのが理想ではあるが、究極的に完成されたチームでも、毎試合、容易に出来ることではない以上、今季も多くなる自陣ポゼッション攻撃から、効率的な攻撃パターンを持つ重要性は高まるだろう。
この点、既にマリノスは、モンバエルツ時代から取り組んできた事もあり、2018年Jリーグにおいて、唯一、自陣ポゼッション攻撃からのシュート率が10%を越えた突出したチームであるのだが、ゴールキーパーを軸とした論理的なロングパス攻撃を導入する事により、さらなる強化が見込めると考える。
アメフト的蹴るべき理由
では次に、論理的な理由を、他競技のアメリカンフットボールを用いて説明する。
ロングパスを出す(蹴る)べき理由は、あっち業界的な用語でいうと
① QB(出し手)がノンプレッシャー
② 実質0カバー(保険的配置無し ※自陣GKのみ、なので1カバー)
③ WR(受け手)へのカバレッジがない
④ インターセプトのリスクが極めて小さい(取られたとしてもアメフトほど痛くない)
こんな4条件が揃っているのに、ロングゲイン狙えるパス投げなかったらアホですよね、明らかな失敗プレーとして指摘される、みたいな話。
今回焦点を置くのは、ガンバや鹿島に見られた、意図的に飯倉に持たせて、基本的には飯倉まで取りには行かないで、マリノス陣内に網を張って飯倉から出るボールを狙うみたいな守備ですけど、これがアメフト的概念を当てはめると、ザル守備にしか見えないという話になります。
ディープゾーンを目指し、タッチライン際を走る快速レシーバーにGKからロングパスが出た場合、守備側は不利すぎじゃないですか?
WRにスピード負けしてて、QBへのプレッシャー捨ててるのに、ディープゾーンが1カバーみたいな、死ぬ気か!?
根性でスピード勝ちしていけという精神論なのか。
ロングパスを受けようとするレシーバー(受け手)に対して、実質カバレッジがない(守備が効いていない)理由として、サッカーのディフェンダーはあらゆる局面で手が使えない事があげられる。
・ 自分の頭上を越えるボールを掴むどころか叩き落とせない
・ もしパスが通ってしまった場合に(レシーバーのパスキャッチ後も)体を掴めない
→ セーフティに重きを置いた、置き去りにされない動きを求められる。
※ つまりパスカットは失敗のリスクから選択し難く、パスが通ってから対処する守備
更にバンプ(レシーバーの走行妨害)はあらゆる位置とタイミングで認められておらず、下手すりゃ退場までありえるファールになる。
そもそもボールを受けていようがいまいが、接触でDFがレシーバーを躓かせたら全部ファール。
有利な点はパスを足で蹴る事のパス精度と、レシーバーが手以外で受けることの難易度。
つまり、サッカーの場合、GKが起点(クォーターバック)となる状況において、DF側が極端なパスディフェンスをした場合、ロングパスが通るかどうかは、DF側に介在する余地は殆無く、出し手の精度と、受け手の技術のみ、になるのではないだろうか。
アメフト的概念がサッカーを打破するゴール
丁度、タイムリーなネタが転がり込んでくれた例。
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— DAZN ダゾーン (@DAZN_JPN) February 20, 2019
GKエデルソン
驚異のアシスト👀
👟💥⚽
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落ち着いて決めるスターリングもお見事👏👏
🏆UEFAチャンピオンズリーグ ラウンド16 1st Leg
🆚シャルケ×マンチェスター・C
📺見逃し、ハイライト観るならhttps://t.co/trLLTyQXw2#UCLisBack#UCLの新しい本拠地#UCL pic.twitter.com/qLQ4c92kJf
QBまで圧力をかけようとしていたのに、それを外されたのではなく、そもそもパスの出し手にプレッシャーを一切かけようとしていないのに、0カバー(DFラインの後ろに広大なスペースがある)状態にしてる。
個々の判断ではなくチームとしてのオーダーでやっているので、これは戦術的な設計ミス。
この動画で、DFの対応が悪いというのは、あくまでもパスが通った後に頑張れたかどうかであって、パスが通るかどうか、パスプレーの成功率という点では関係がない。
QBがノープレッシャー、0カバーでは攻撃側の技量のみが必要とされ、守備側はノーチャンス、ファールで防ぐしかない。
飯倉なら出来る
クォーターバックはいわゆる花形プレーヤー。
正確なパスは勿論、視野、判断力、冷静を保つメンタル、現場で作戦変更を行う権限もあり、リーダーシップも絶対条件だ。
ドラフト上位の新人選手なら、大学出て一年目から年俸10億円、そんな世界。
これまでは、クォーターバックという役割をGKでなし得る技量を持つ選手がいなかったから通用していたサッカー的な守備が、前述のエデルソンのような、なし得る技量を持った選手によって、アメフト的に壊されるシーンが増えるのではないか。
この点、日本にこんな選手が居たのか、と世界に教えたいマリノスの飯倉。
シーズン終了後に、飯倉のパス集を作ったら、エデルソン並のダイジェスト動画が完成しそう。 あいつキック上手すぎやん、ハーフライン越えてくるし、逆サイドのウイングまで40mくらい有るのにバシーっと足元に通すやん、あんなん普通のキーパーできへんって! #fmarinos Jリーグを観るなら @DAZN_JPN pic.twitter.com/5mzf27QG8F
— Speir_s (@Speir_s) March 2, 2018
マリノスは攻撃権の放棄はしない、選択肢に無い。
だからといって、それ故に不利になってはいけない。
このテーマにおいて、ポゼッション至上主義な哲学、それを持つチームが自陣からロングボールを蹴る解釈として、サッカー界では明確に定義できていない事が、問題を難しくしているのではないか。
そこで、GKにまで詰められない守り方というのは、アメフト的観点で見た場合に、GKに優れたQBの資質があれば、そのロングパスに対して守備側は不利である、という見解を提示し、ポゼッション至上主義を持つチームが積極的に狙うべきゴールへのチャレンジであると定義したい。
今季、マリノスがどの様な 解 を用意しているのか、私は飯倉のプレーに期待する。
「過去に拘って今のサッカーを変えずに、このままやった方が良いのでは、という人もいます。そういう状況でも信念を貫いていくことが最も大切。」
「自分は必ずこのチームで成功すると信じています。」
余談
アメフトに触れるならオススメはこの作品
あえて、これ。
シティが登場したAll~シリーズなんだけど、元々はアメフト用のパッケージ。
なので、シーズンが16試合しかない(勝ち上がればプレーオフ)アメフトは、視聴者がサイクルを経験し、チームとシーズンを再体験できるのだけど、シーズン60ゲームするサッカーだと、ただのドキュメンタリーになってしまった感がある。
今季からVARを始めとしてテクノロジーを積極導入したリーガが、ゴールの度にマトリクスカメラ(映像を止めて360度回せるアレ)を使うのが微笑ましい訳ですが、1試合何台カメラ動いてるんだ、NFLすげぇな、アメフトすげぇな、とサッカー界を変えたいと思ってる人ほど見て欲しい。
昨今、footballistaがそっち方向に飛んだのもあって盛り上がってるけど、欧州の後追いじゃなくて、先回りのネタが落ちてる宝庫ではないだろうか。